【建物語】大正ロマンの館・矢吹町 住民が愛し集う場所

 
住居兼医院として大正時代に建てられた建物。現在は「大正ロマンの館」としてカフェや学習スペースなどとして使用されている

 矢吹町の中心市街地に、ひときわ目立つ木造2階建ての「大正ロマンの館」がある。白を基調とした外観は、長い柱や玄関上のバルコニー、縦長の窓が特徴的で、まるでここだけが大正時代のままタイムスリップしたようだ。

 1920(大正9)年に建てられたこの建物は長く住居兼医院だったが、現在は改装され、カフェや学習スペースなど幅広く使用されている。

 中に入ると、入り口付近にカブやニンジンなど地元農家が育てた新鮮野菜がずらりと並んでいる。「地域の人が作ったものを知ってほしいので販売しているんです」。1階でカフェ「SuCRE(シュークル)」を営業している佐藤薫さん(67)はそう話すと、笑顔で迎えてくれた。奥に進むと、野菜以外にも地域の人が手作りしたジャムや小物、アクセサリーなどが並んでいる。ハンバーグスパゲティなどの料理が人気の同店は、小学生から高齢者までさまざまな世代の地域住民が集まる憩いの場となっている。

 2階は学習スペースと貸会議室になっている。学習スペースにある机は、地元の光南高生と矢吹中生が協力して作ったもの。天井に施された彫刻などは建設当初からのデザインのままだ。温かみを感じる落ち着いた雰囲気の中、地域の学生が勉強の場として活用している。

 今は多くの人が行き交い、にぎやかな同館だが、医院としての役目を終えた1965(昭和40)年ごろからは、しばらく空き家の状態が続いた。こうした中で95年ごろから、「中心市街地を明るくしよう」と、地元の商工会によるライトアップが行われ、町のシンボルとして夜の街を照らしてきた。

 しかし、2011年の東日本大震災では壁が崩れるなどの被害を受けた。取り壊しの話も持ち上がったが、「歴史があって価値がある。残した方がいい」と多くの町民らから存続を求める声が上がり、約2年間の修復工事を経て生まれ変わった。改装後の16年から、ここで別のカフェを営んでいた同町の大木志保美さん(55)は「地元の皆さんの思い入れがある場所。子どものころから見てきたここで店を開くことができて、とても楽しい毎日を送ることができた」と振り返る。

 「実は、このカフェは今月いっぱいで閉店になるんです」と佐藤さん。同館は町の所有で、佐藤さんは指定管理者として19年から店を開いている。指定管理の任期は今月末までのため、21日が最後の営業日。常連だという近所の小学校に通う関根黎咲(れいさ)さん(11)は「友達とよく来ていたのでさみしいけれど、とてもリラックスできる場所だった」と思い出を語る。佐藤さんは「閉店と聞いて来てくれるお客さんも多く、ありがたいことに今も忙しい。お客さんに愛され、楽しい時間を過ごせた」としみじみ語る。

 次は長尾裕之さん(49)が、ここでは「3代目」となるカフェを開く予定で準備を進めている。ここを拠点に、キッチンカーを各地に走らせることで「町外でも町の魅力や大正ロマンの館をPRしていきたい」と意気込みを語る。

 東日本大震災の被害も乗り越え、町民らが集い、交流する場となっている「大正ロマンの館」。多くの人がバトンをつないで新しい命を吹き込みながら、いつまでも愛され続けていくだろう。(伊藤大樹)

相馬井戸端長屋の地図

 大正ロマンの館 1階のカフェ「SuCRE(シュークル)」では、気まぐれプレート、ビーフカレー、スイーツセットなどが味わえる。営業時間は午前11時~午後9時(ラストオーダー同8時30分)。2階の学習スペースは誰でも使用できる。貸会議室の使用には予約が必要となる。火曜定休。住所は矢吹町本町161の7。問い合わせは同館(電話0248・21・8883)へ。

          ◇

 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。