【みんゆう特命係】横断歩道「止まれ」低調 福島県内停止率調査

 
信号機のない横断歩道で車の停止率を調査する記者=会津若松市

 信号機のない横断歩道を渡ろうとするとき、車は停止するのか―。日本自動車連盟(JAF)が毎年公表している信号機のない横断歩道での車の停止率で今年、本県は55.3%で全国9位となった。3.5%にとどまり全国ワースト9位だった2018年調査から改善したが、いまだ4割強が停止していない。実態はどうか、福島民友新聞社が県内3カ所で調べた。(報道部・熊田紗妃)

 調査は19年に続き2回目で、前回の停止率は16.18%。調査方法を前回にできる限り近づけ、場所も福島、会津若松、いわきの3市に設置された同じ横断歩道で11月上旬に行った。記者が渡ろうとした際、一時停止する車の台数を数え、対象は前回同様、主に自家用車とした。道路交通法では、横断歩道を渡ろうとする歩行者がいた際、車両は一時停止しなければならない「横断歩道における歩行者優先」が定められている。

 福島50%超え

 福島市の調査地点は、見通しが良く、買い物客が渡ることが多い泉地区にあるスーパー前の横断歩道。一時停止率は調査した3カ所で最も高い51.40%となり、前回調査時の22.94%を大幅に上回った。横断歩道の手前で車が減速するなど、横断する人が多いことを運転手が意識しているようだ。

 いわき市は、道幅が狭く緩いカーブに設置された平地区の横断歩道。近くに保育園や小学校があり、夕方になると車通りが増える。歩道に街路樹や電柱が立ち、運転手に気付いてもらえない。一時停止率は24.32%で、前回の8.29%から改善したものの低調だ。3カ所の中で通行する車の速度が最も速く感じられた。

 会津若松市は、鶴ケ城の堀に沿った片側1車線の道路で、紅葉シーズンを迎え県外ナンバーの車も。車通りが3カ所の中で最も多く、片側を走る車が停車しても、もう片側は止まらないことが多々あった。一時停止率は22.93%と前回の19.51%は超えたが、今回の調査地点の中で最も停止率が低かった。景色に目を奪われたのか、よそ見をする運転手の姿もあった。

 意識に高まり

 調査結果は【グラフ】の通り。計1101台のうち349台が停止し、一時停止率は31.7%。JAFの結果を下回る結果となった。停止率が低いことが気になり、違う試みもした。横断する前に手を上げ、その効果を確かめた。JAFの調査で長年全国1位の長野県では、手を上げることが根付いているという。3カ所とも試してみると、半数以上の車が停止した。

 地域交通に詳しい福島大の吉田樹准教授は今回の結果について「全国の警察が広報や取り締まりをしていることでドライバーも(停止率に)触れる機会が増えた」とし、「細かい条件で変化するが、運転する側の意識が上がっていると取れる」と分析する。

 運転手の意識向上に加え、歩行者も手を上げて意思表示をすることが安全・安心な交通社会づくりに重要だと再認識した。

 【調査方法】平日の午前10時~午後4時(昼休みを除く)に県内3カ所の横断歩道で、記者が手を上げずに横断を試みた。日本自動車連盟(JAF)の調査とは異なり、歩行者の右側から近づく車に限らず、左側から近づく車も対象にした。交通事故に注意するとともに、調査で交通渋滞が起こらないよう間隔を空けて実施した。

 歩行者の意思表示も大事

 信号機のない横断歩道で車の一時停止率を調べた本紙記者の調査。3年前と比較して停止率は約2倍に改善、ドライバーの意識の変化が見られた。一方、依然として多くが停止しておらず、横断歩道での事故も減らない。停止率向上に向けた一層の取り組みが求められる。

 「最近は横断歩道で車が止まってくれることが増えた」。徒歩や自転車で移動することが多いという福島市の80代女性はそう実感を語る。同市のドライバーは「(横断歩道または自転車横断帯ありを表す)ダイヤマークを見た時は注意しながら運転している」と話し、運転手側の意識の変化が停止率の向上につながっているようだ。

 一方、県警によると、横断歩道での事故は後を絶たない。今年の横断歩道横断中の事故は21日現在、発生件数126件(前年同期比25件増)で、死者5人(同1人減)、けが人124人(同26人増)。交通企画課の担当者は「歩行者がいる時に車が横断歩道手前で一時停止するのは道交法で定められた義務。運転手はさまざまな道路表示を見落とさないよう注意して運転しなければならない」と強調する。

 こうした中、ドライバーからは「歩行者が渡りたいのか分からないことがある」との声も漏れる。

 日本自動車連盟(JAF)の調査で7年連続全国1位となっている長野県では、長年「横断歩道ルール・マナーアップ運動」を展開している。運転手に横断歩道前での減速と横断者の有無の確認実施を訴えることに加え、歩行者にも手を高く上げ横断する合図「ハンドサイン」の実施や左右の安全確認などを呼びかけている。

 また、長野県警は横断歩道でのルールについて幼少期から意識付けを図っている。動画投稿サイト「ユーチューブ」で横断歩道の渡り方を紹介するなど、交通安全協会や地域住民の協力も得て、工夫しながら取り組みを進めている。同県警の担当者は「幼い頃、歩行者として車に止まってもらっていたから運転する側になっても止まる。ほかの車が止まっているから自分も止まる。そんな連鎖が生まれている」と分析した。

 本県でも、ドライバー、歩行者がお互いを思い、「良い連鎖」をつくっていくことが、事故を減らす解決法につながるはずだ。

 「生活道路、より歩行者優先」福島大・吉田樹准教授

 地域交通などに詳しい福島大の吉田樹准教授(43)に一時停止率向上に向けた方策などを聞いた。

 ―全国では一時停止率向上や事故減少に効果を上げている取り組みもある。
 「仙台市では市街地の生活道路で歩行者を優先し、車のスピードを落とすため信号機を撤去する代わりに一時停止の標識を設けるなど車の走らせ方自体を変え、実際に効果を上げている。信号があれば安全というわけではない」

 ―歩行者、運転する側それぞれに求められることは。
 「歩行者は、運転手に気付いてもらえるよう手を上げることや、反射材など光るものを身に着けたりすることも重要。運転手側は、幹線道路に比べ道も狭く、いつ歩行者が出てくるか分からない。状況を理解した上で生活道路ではより歩行者を優先すべきだ。意識的にスピードを落とすことで事故のリスクも減ることを意識してほしい」