【TRY・電柱上り(上)】命綱しっかり!いざ送電設備の点検

 
秋山課長(左)から安全確認の方法を教わる記者。一つ一つが技術者として欠かせない作業だった

 便利になった現代でなくなったら困るものといえば「電気」が思い浮かぶ。普段、当たり前に使う電気。そんな当たり前への感謝を取り戻すため、福島市の東北電力ネットワーク資材センターに向かった。有事の際は電柱に上り、電気の安定供給のため点検や補修などの職務に当たる送電部門の技術者となる。それが今回のトライだ。(報道部・折笠善昭)

 入社30年以上の同社福島電力センター配電テクノセンターの秋山守課長(51)が指導役を務めてくれた。水色の作業着姿は達人そのもの。記者もスーツを脱いで、用意してもらった真新しい作業着に着替える。安全靴を履くと気持ちは立派な技術者。早速、作業開始だ。

 そう思いきや秋山課長からいきなりの指導。作業着の着方が大きく逸脱していたようだ。「シャツはズボンの中に、ズボンの裾は安全靴にしまいましょう」。この着方が基礎中の基礎だったと痛感したのは、電柱から地上に「帰還」した後だった。

 電柱に上るためには「命綱」と、万が一落下した際に加速度を緩める補助ロープが必須だ。加えて、電柱での作業に欠かせないナイフやスパナ、モンキーレンチなど「七つ道具」を腰に巻く。重量は5~8キロほどで、ずっしりと重い。

 電柱に上る前には命綱にほつれがないかなど、不具合のあるなしを「目と手と声の確認です」と秋山課長。目で見て、手で綱を触り、声で最終確認する。大切な命を守るためのルーティンをこなし、今度こそ作業開始、そう言っても電柱に上るだけらしいが。

 「10メートルってこんな高いの」。何げなく見ている電柱も上るとなると恐怖の対象。電柱のくいに命綱を掛けては上り、命綱をさらに上のくいに掛けては上る。これを繰り返し、おびえながら両手と片足の3点で体を支えて上っていく。

 秋山課長に「取りあえずの目標」として提示された中間地点に到着すると、楽しさが勝ってきた。「高いところ苦手だったけど、案外いけるかも」と思ったのもつかの間。頂上で新人技術者を待ち構えていたのは高さとは違った恐怖だった。

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 東北電力 主に本県など東北6県と新潟県に電力を供給する電力会社。水力、火力、地熱、太陽光、原子力の各発電所を持つ。「東北電力ネットワーク」は4月に東北電力から法的に分社化され、送配電部門を担っている。