【TRY・電柱上り(下)】高さ10メートル...命綱の大切さ実感

 
縄で結ばれた資材を運び上げる記者。これで立派な技術者の仲間入りか

 何げなく使っている電気のありがたさを体感する電柱上りトライ。福島市の東北電力ネットワーク資材センターにある高さ10メートルの電柱を無事に上り、電気の安定供給のため汗を流す技術者の気持ちを味わえた。さて、後は下りるだけだ。(報道部・折笠善昭)

 てっぺんで安堵(あんど)していると、講師の同社福島電力センター配電テクノセンターの秋山守課長(51)と先輩記者(28)が打ち合わせしているのが見えた。「...を...しょうか」。何か聞こえてきた。「両手を離してみましょうか」。耳を疑った。

 技術者は命綱と補助ロープで体を支え、電柱の上で作業する。今日は新人技術者。電柱に上るだけで終わると思っていた自分が甘かったようだ。多少のだだをこねながら自らが「目と手と声」で点検した命綱を信じ、覚悟を決めて両手を離した。命綱の言葉通り生まれて初めてその効果を知った。体は固定され、落ちる心配は全くない。

 さらに作業も加わり、実際に電柱に取り付ける約20キロの鉄の棒を持ち上げた。「電柱に上るだけだから」。上司の説明は何だったのだろうか。秋山課長から「下に幼児がいると思って」とのプレッシャーを受け、腕を震わせて慎重に作業を続けた。「現場に行けますね」。ねぎらいは、お世辞でもうれしかった。

 てっぺんで一息ついていると、施設の壁に「安全第一」が見えた。作業員の安全は電気の安定供給のために絶対に欠かせない。研修業務を担当する秋山課長は新人、ベテラン問わずに安全確認の徹底を指導するという。

 地上に戻り、秋山課長が「1メートルは一命取る」という格言を教えてくれた。秋山課長は原発事故後、避難区域で作業に当たったほか、昨年の台風15号では千葉県館山市に復旧班の先発隊として派遣された。安全確認はあらゆる現場で自らを守る「唯一無二の手段」と言い切る姿が印象的だった。

 作業前、秋山課長に正された服装。電柱の上り下りや作業の邪魔になるだけでなく、命綱の効果を減らしてしまう恐れがあったのだ。電気の安定供給は身だしなみから始まっていた。

 果たして自分は電気を大切に使えているだろうか。自戒の気持ちを込めて記事を打つパソコンの向こうに、技術者の姿が浮かんだ。

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 電柱 電気を送る送電線のほか電話やインターネットなどの線も架かっていて、市民生活を支えている。高さは場所によって異なり、10メートル以上のものもある。電柱に上るためのくいは、地上約180センチ以上のところから設置されており、低い位置のくいは道路と平行になっている。