【TRY・地ビール造り(中)】無駄なく...煮出した麦芽はネギ畑に

 
麦汁の抽出に使った麦芽を肥料としてネギ畑にまく記者。地ビール造りに無駄はない

 福島市大笹生のコメ農家で記者が挑戦する地ビール造り。製造工程の途中で社長の加藤晃司さん(40)から不意にバケツを渡された。

 加藤さんに言われるがまま、寸胴(ずんどう)から甘い麦汁のもととなった麦芽をかき集め、袋に詰めて軽トラックに載せた。向かった先は加藤さんのネギ畑だった。

 加藤さんは袋を畑の真ん中まで運ぶと、畝にその麦芽をまき始めた。煮出した麦芽を養分とした土壌で栽培する農作物はよく育つという。農業とビール造りの相乗効果を実感した。「何も無駄にならないよ」と話す加藤さんは、カボチャや栗など収穫した農作物でビールを造ることも検討中だという。

 醸造に向け、まだ大切な作業が残っている。ホップと発酵に使う酵母の組み合わせを決める作業だ。この組み合わせでビールの苦みと香りが決まる。この日造るビールは、ホップの苦みと香りを楽しむ「IPA」という種類。加藤さんから「このビール造りで一番工夫するポイント」と説明を受け、気合が入る。

 酵母は十数種類。香りはかんきつ系やリンゴ、ナシ、バナナなどさまざま。加藤さんのまねをしながらの作業だが、実際にそれぞれの酵母で造ったビールをテイスティング。出来上がりの香りと味を予想しながら酵母に対するホップの割合を決めていった。メモを取っての真剣な作業だ。繊細な香りと味を感じ取る加藤さんの感覚の鋭さに驚かされた。

 作業中、醸造を手伝う小池悠太さん(33)がビールの歴史を教えてくれた。ホップは今でこそ香りと苦みを付ける役割だが、もともとは防腐剤として使われていたという。

 そして聞き慣れないIPAという言葉。英国からインドまで運ぶ長い航海でも腐らないよう大量のホップが入れられたことがきっかけとなり、IPAというビールが生まれたと教えてくれた。

 知識をもらい、最後の作業だ。麦汁を再び煮沸し、数種類のホップを投入。煮て香りと苦みを抽出。そこに酵母を入れ、発酵させるタンクに移し替えた。2週間の発酵が始まった。いよいよ完成間近だ。

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 ビール造りの工程 材料は主に麦芽と水、ホップ、酵母の四つ。糖化と濾過(ろか)、煮沸、冷却、発酵の五つの工程で造る。このうち冷却は酵母が活動する温度まで下げる作業。最後の発酵期間は3日~2カ月間とさまざま。