【TRY・発掘調査(上)】石器はどこ?少しずつ表面ガリガリ

 
上田さん(左)の指導の下、慎重に土の表面を削る記者

 いつの間にか遺跡の発掘調査に挑戦することになった。発掘調査のイメージは湧くが、右も左も分からない。「新発見に立ち会えるかも」。とりあえず楽観的に考え、発掘作業中の福島市平石にある「町畑・吉治下遺跡」に足を運んだ。(報道部・遠藤真菜)

 遺跡は福島盆地南部の丘陵の裾野。国道13号のバイパス路線「福島西道路」の延伸事業に伴い昨年から調査している場所だ。今年は動物を捕まえるため縄文時代に作られたとみられる落とし穴をはじめ、市内で出土例が少ない旧石器時代後半の打製石器、江戸時代の遺構がまとまって出土した。

 「遺跡には昔の暮らしを知る大切な情報が詰まっています」。発掘調査を進める同市振興公社の文化財調査専門員の上田優喜さん(30)が教えてくれた。現場担当で今回の案内役だ。ちなみに長野県出身で、東北の縄文時代に興味を抱いて考古学を学び、公社に就職した若きホープだ。

 「基本は土の表面を注意深く観察し、少しずつ削ること」。上田さんの手ほどきを受け、周りの土との色や硬さの違いなどで遺構を見極める。「ここが江戸時代です」。土層を指さして土の違いを説明してくれた。

 確かに色が違う。「出土した遺物から時代を判断し、土層が同じなら時代も同じと考えるのが基本」と上田さん。なるほど~。

 いよいよ発掘作業。掘り下げられた土層は旧石器時代。聞けばこの土層は過去の洪水などで混ざり合い、細かい石器が紛れてしまっており、見落とさないよう慎重な作業が必要という。

 重圧を感じつつ三角ホー(通称・ガリ)で土を薄く削る。硬くて力を入れないとうまく削れない。なのに丁寧さも求められる。かなり地道な作業だ。

 残念ながら成果は得られなかったが近くから石器が出土しており、目印を付けたまま置かれていた。発見された石器は山形県などで産出される石材であることから、旧石器時代の人々の営みや交流などを考えるヒントになるという。なんて奥が深い世界と感心した。

 出土した遺物はすぐに取り上げない。当時の人々の暮らしぶりを知る重要な手掛かりだからだ。上田さんは「多くの情報を記録することが肝要」と話す。

 遺構や遺物の大きさや形、深さ、位置、土の様子などを写真や図で細かく記録するそうだ。気付けば発掘調査に魅了されていた。

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 発掘調査 工事などに伴う緊急調査と学術目的の調査がある。文化財保護法で保護対象となっている遺跡は旧石器時代から江戸時代のもの。全国の遺跡は約46万カ所で毎年約9千件の発掘調査が行われている。福島市では遺跡が1200カ所超あり、これまで100カ所超の発掘調査を行っている。