【TRY・湯守(上)】断崖絶壁!でこぼこ道...岳の源泉管理へ

 
源泉近くの山道で武田さん(左)から説明を聞く記者。文字通りの断崖絶壁だ

 温暖な静岡でぬくぬくと育った記者にとって福島の冬は厳しいが、あえて寒さに立ち向かう。目的地は雪化粧した安達太良山。二本松市にある岳温泉の源泉地だ。源泉から温泉街まで湯を引く「湯樋(ゆどい)」などの長さは約8キロ。全国一、二を争う長さの「引き湯」を保守管理する湯守(ゆもり)にトライする。(報道部・弥永真依)

 「すごい所を歩くからね」。湯守の親方武田喜代治さん(69)の一言が過酷さを物語っていた。完璧な防寒対策と「ぬれても大丈夫な手袋」を着用するよう指示を受け、向かったのは温泉街にある温泉神社近く。

 武田さんをはじめとする「湯守軍団」の4人はチェーンソーなどを準備し、完全装備で出迎えてくれた。付いて行けるのか。漠然とした不安の中、四輪駆動車に乗り込み、源泉まで11キロの道のりが始まった。そこからはまさに遊園地のアトラクション。

 舗装されていない凸凹した道を走り続ける。ぐらぐらして車酔いしそうだ。こんな道を毎週行ったり来たりする湯守の皆さんにまず脱帽した。途中、雨による土砂崩れで進行できない場所を発見、急いで道の補修に突入した。

 いきなりの土木作業だ。ハンマーを持ち、木のくいを打つ。見た目よりもはるかにハンマーが重く、思うように打てない。くいは微動だにしない。「まずい、全然役に立ててない...」。非力な自分に悲しみを覚えた。

 作業を終え、悪路を進むこと約30分。ようやく源泉近くの標高約1400メートル地点にたどり着いた。辺り一面は雪景色。気温は0度。極寒に耐えられるようにダウンジャケットを着てきたが、それでも寒い。

 それにしても武田さんが言っていたように本当にすごい場所だ。文字通りの断崖絶壁。一番狭い所の道幅は目測で80センチほど。少しでも足を滑らせたら命はなさそうだ。

 進むにつれて硫黄の臭いが強くなり、長時間立ち止まることは厳しそうだ。源泉の目印となる山小屋「くろがね小屋」が見えてきた。道中、温泉があふれ出る場所に長靴を履いた足を突っ込み、ほのかな温かさで生き返ると、「温泉街の命」を守る仕事が待っていた。

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 岳温泉 源泉は標高1500メートル付近。引き湯は温泉旅館など11カ所に供給されている。お湯の水素イオン指数(pH)は2.5でレモンとほぼ同じ。全国でも珍しい酸性泉で殺菌力が高く、慢性皮膚炎やアトピーに効果があるとされる。