【TRY・北限富士山撮影(下)】「雪中」集中、一瞬にかける

 
富士山撮影に挑む記者。富士山遠望隊のメンバーから借りた三脚を使い、富士山が写ることだけを願って神経を集中させる

 急に変わる山の天気に翻弄(ほんろう)され、前回のアタックで惨敗に終わった「富士山遠望隊」。「大寒波襲来」と予測する天気予報が再チャレンジの日を告げていた。(川俣支局長・福田正義)

 川俣町と飯舘村にまたがる花塚山(はなづかやま)から308キロ先の富士山。撮影するには寒くて空気が澄んだ日は好条件。ただ、前回と違って真冬の山に変化。生半可な装備では登ることができなくなっていた。

 若松支社勤務の時に購入したスノーブーツを用意。しかし同行する斎藤金男さん(73)から「それではちょっと危険だな」と言われ、滑り止めとして靴底にとがった爪を装着する用具「アイゼン」を付けた。

 滑落しないよう一歩一歩気を使い、雪の中を進む。雪山登山はすぐに疲労が体にたまっていった。登山開始から約2時間。息を切らしながら、苦い思い出が残る山頂に再び到達した。

 早速、遠望隊のメンバーがそれぞれ撮影の準備に取り掛かった。ところが、またしても雲行きが突然怪しくなってきた。悪夢がよみがえる。川俣町周辺の天気が急激に変わったのだ。

 「やっぱり山の天気は読めないね」と斎藤さん。富士山撮影の望みは薄いとの雰囲気は感じ取ったが、すぐに登山道へ足は向かなかった。遠望隊全員が諦め切れなかったのだ。

 「どうにか晴れてくれないか」―。そこで、タイムリミットを決めてしばらく様子を見ることに。待つこと20分。願いが通じたのか。雲の動きが次第に速くなり、なんと時折、青空が差し込み始めた。

 視界も徐々に良くなり、富士山撮影の目印の一つ、田村市のごみ焼却施設の煙突と煙を確認。すかさずカメラを構え、シャッターを切った。写真を確認すると県境の稜線(りょうせん)がうっすらと写っている。しかし、収穫はここまでだった。それでも「待ったかいがあったね」。遠望隊全員で健闘をたたえ合った。下山後、浮かない表情をしていた記者に、メンバーが「富士山の撮影だけが登山の目的ではない」と語り始めた。「道中、たとえ富士山を撮影できないと分かったとしても私たちはそこで引き返さない」と教えてくれた。

 今回は成功か失敗かと聞かれれば、失敗だったのかもしれない。しかし、富士山撮影に挑み続け、山で友情を育む熱い遠望隊の姿にロマンを見た。「結果だけでなくそれまでの過程も大事にする」。そう気付かされた。

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 ライブカメラの活用 三株山(古殿町)山頂の展望台「富士見台」に設置されているライブカメラの画像を参考にし、富士山が撮影可能な日かどうかを判断する。ライブカメラは富士山方向の眺望を10分間隔で配信している。気象条件が整えば、富士山を確認できる。