【TRY・鷹匠(上)】タカと心の距離 「楓ちゃん」に近づけない

 
鳴き声を上げられてしまい、これ以上はタカに近づけない記者。「友達」になるのはいつの日なのか

 「ついにアポが取れたぞ!」。トライ担当デスクが興奮気味にやってきた。話を聞くと、今回のトライは前からやりたかった「鷹匠(たかじょう)」だという。真冬はちょうどタカ狩りのシーズン。「頼んだぞ」と強い力で肩をたたかれ、福島市飯野町にいる鷹匠のもとへ飛び立った。(報道部・坂本龍之

 鷹匠といえば、タカやハヤブサなど大きな猛禽(もうきん)類を操り、野山で獲物を捕まえる人だとすぐに思い浮かんだ。いろりを囲んで人里離れた山奥に住んでいるようなイメージだが、今回の師匠は福島市の本社から車で30分かからない場所にいた。

 鷹匠の高木利一さん(70)の自宅前には、旧飯野町教育委員会が設置した看板が立っていた。「ここに鷹匠がおります」とある。あまりに丁寧な説明書きに襟を正して玄関の門をたたいた。

 迎えてくれた高木さんは「昔は新聞やテレビによく取り上げられて海外からも撮影に来た時もあったなぁ」と笑顔で歓迎してくれた。

 高木さんは現在、タカの繁殖や弟子の指導、イベントでの実演などで伝統文化を伝えている。鷹匠を志したのは約50年前。テレビ番組で山形県の鷹匠が大型のクマタカを扱う様子を見て、弟子入りを志願したそう。

 番組を見た翌日、すぐに列車に乗って鷹匠を訪ねたそうだ。山形に通って基本の技術を学んだ後は、日本古来の鷹匠を伝える諏訪流を学び、鷹匠に認定されたという。しばしの歓談の後、高木さんは記者の相手をしてくれる雌のオオタカの楓(かえで)ちゃんを紹介してくれた。

 オオタカというけど想像より大きくないな。そう思いながら記者が近づくと、止まり木につかまる楓ちゃんが「キーキー!」とけたたましく鳴き始めた。高木さんが「警戒するから目を合わせないで」と一言。その場から動けず、しばらく立ち尽くした。

 第一印象が悪かったせいか、その後もなかなか心を開いてくれない様子の楓ちゃん。高木さんに甘え、餌をついばむ姿はもはや入り込む余地すらない。

 誰が見ても、タカを操って狩りをする状況ではなかった。「『キーキー』は餌が欲しい時の鳴き声で、『ケッケッケッ』が警戒時だから大丈夫だよ」と慰めてくれる高木さん。結局、楓ちゃんに触れることもできないまま初日は過ぎていった。

 鷹匠(たかじょう) タカ狩りのために猛禽(もうきん)類を調教する人。高木さんは1996年に日本放鷹協会から鷹匠の認定を受けた。当時、東北地方で唯一の認定。高木さんが属する流派は「諏訪流」といわれ、古くは将軍家や天皇家に仕えた。