【TRY・鷹匠(下)】腕に伝わる力強さ 勇気出し拳差し出す

 
ついに楓ちゃんと触れ合うことができて喜ぶ記者

 オオタカの楓ちゃんとの心の距離がやっと縮まり、近づけるようになると、鷹匠(たかじょう)として第一歩を踏み出す段階となった。人の拳から、別の人の拳へとタカを往復させる技「振替え」に挑戦する。

 拳の上に乗せたタカを別の人の拳へ放ち、次は「ホー、ホー」との掛け声で呼び寄せる技だ。受ける際は背中を向けて腕を差し出さなければならない。怖がってタカを見ようとすると、タカが嫌がり、拳に飛んできてくれない。「頭をつつかれてしまうのでは」。背を向けるため怖さを感じるが、とにかく無心となり、止まり木のように体を硬直させて待つことにした。

 すると「バサッ」と羽ばたく音が。「来るぞ、来るぞ」。近づいてくる気配を感じ少し身構えると、左腕にふわりと重みがかかった。恐る恐る横目で確認すると、楓ちゃんがそこにいた。

 手なずけるためのエサを急いで差し出すと、鋭いくちばしで勢い良くついばみ始めた。ようやく心を通わせられた気がしてうれしいが、「ブチ! ブチ!」と羽つき手羽を食べる姿は恐ろしい。

 シカ革の手袋をしていても、拳には爪が突き刺さったかのよう。タカが爪でつかむ力強さと鋭さを思い知らされた。

 歓喜のひとときを味わった後、楓ちゃんは鷹匠の高木利一さん(70)の元へと再び戻っていった。どこか安心した様子に見えた。

 人馬一体ならぬ「人鷹一体(じんよういったい)」の関係を見せてくれた高木さん。トライさせてくれたことに感謝すると、高木さんは「こうして若い人で鷹匠をやる人が増えてほしいかな」と話してくれた。

 鷹匠はタカなどを扱う趣味という見方があるが、日本古来から続く文化だと高木さんは考えている。流派の一つ、諏訪流には殿様へタカを手渡す作法があり、時代が変わってもその作法は継承されているという。生き物と近くで向き合えるこの文化が続くように強く願っている。

          ◇

 3段階の認定試験 諏訪流では鷹匠になるために3段階の認定試験を実施している。第1段階は、タカの飼育と調教方法などの講座を学び基本技を体得する。第2段階は、タカを3年以上調教し、年に1回の冬季放鷹術公開の場で試験を受ける。試験に合格すると鷹匠に認定される。さらに調教法や技術を極めると後進の育成ができる師範鷹匠になることができる。