【TRY・山塩作り(上)】源泉「ぐつぐつ」、サウナより暑い

 
釜の火を強くするため木材を入れる記者。身長を超える木材を持って入れることもあるため、少しの作業だけでも息が切れる

 生産量が少なく、かつて「日本一高価な塩」ともいわれた「山塩」作りにトライする。産地は北塩原村。塩分が強く、ミネラル豊富な温泉から作る特産品だ。手作業による塩作りの魅力を知るため、会津山塩企業組合に向かった。(喜多方支社・羽鳥拓貴)

 教えてくれるのは工場長の星毅さん(40)。組合に入って1年余りというが、現場を仕切るたくましさが雰囲気ににじみ出ていた。「冬で良かったね。夏だったらとけちゃうよ」。今回のトライの過酷さを物語るありがたい言葉をもらい、作業に入った。

 「まずは源泉を鍋で煮出します」。原料は村内にある大塩裏磐梯温泉の「しょっぱい源泉」だ。塩分濃度は約1%で、約3%の海水より低い。そのため源泉約2000リットルを煮詰めても、出来上がる山塩は17~20キロほどしかない。

 貴重な塩を作るためには、焦げ付かないよう丁寧な作業が必要なのだ。工場内には源泉を煮詰める九つの鍋と火をたく釜が三つ。石油やガスは使わない。鍋の一部分に火が集中してしまうからだ。

 鍋に当たる火の場所を調整しやすい木材を燃やして煮出す。「まきの火は遠赤外線が特徴。効率良く煮詰めることもできるんだよ」と星さん。木材は多くのメリットがあるようだ。まき割りにも挑戦させてもらい、準備は整った。

 担当させてもらったのは温泉を煮出し始めて3日目の作業。釜の前に立った記者。ナイロン製ジャージーと化学繊維のチノパン姿の記者は時すでに遅し。熱いというより体中の皮膚が痛い。星さんは「革製品の服を身に着けないと皮膚も熱くなりますよ」と一言。

 サウナの温度と湿度がさらに上がった感じだ。「今は(部屋の中が)90度近くですけど、まだいい方です」。夏は5分も居られないそうだ。

 汗が止まらない。暑さ、湿気でもう限界。10分近くで外に逃げようとした。ふと振り向くと、星さんが真剣なまなざしで作業をしていた。これを年中繰り返していると考えると、その姿に感服するしかなかった。

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 山塩作りの歴史 約1200年前から北塩原村内で作られていたとされる。江戸時代に会津藩に納め、明治時代には皇室にも献上された。製造は何度か途絶えたが、2005(平成17)年に復活した。現在は「会津山塩」の商品名で販売している。