【TRY・山塩作り(中)】立ちはだかる湯気、逃げちゃダメだ

 
星さん(左)の指導を受けながら、沸騰した鍋から山塩をすくう記者

 山塩作りはヤマ場を迎えた。煮詰めた温泉から出てきた山塩をすくう。ただ、室温90度近くの猛烈な暑さ、湿気ですぐにでも逃げ出したい。それでも工場長の星毅さん(40)は黙々と作業をこなしている。気持ちを奮い立たせ、沸騰する鍋に立ち向かった。(喜多方支社・羽鳥拓貴)

 九つの大鍋が並ぶ北塩原村の工場内で作業は続いた。沸騰している鍋をのぞこうとすると、「やけどに気を付けてください」。星さんの大きな声が響く中、鍋からは記者を拒むように大量の湯気が立ち上った。

 渡されたのは細かい金網のおたま。意を決して一すくい。これまでの苦労を知ると、作り手の思いを感じる。ただ、湯気で愛用の眼鏡は曇り、やけどを恐れて腰が引けた記者。おたま半分もすくえない。「もう少しすくえるよ」。星さんの手を借りながら作業を続けた。おたまにのった1キロ弱の山塩がずしりと重い。

 すぐに両手で持ち上げ、水気を切り、袋に入れた。大量の汗が噴き出す作業だが、充実感がある。

 山塩を作るには、季節で異なるが3~7日間かかる。複数の大鍋で源泉を煮詰めて一定の濃度になったら冷ます。この作業を繰り返し、濃度約17~20%の温泉水を大量に作る。

 その温泉水をさらに煮詰めると、結晶化した山塩が現れる。2段階に分けて煮詰めるのには理由がある。不純物を取り除くためだ。

 冷ますことで、源泉と不純物を分離させ、不純物を鍋の底に沈殿させる大事な作業だ。山塩をすくう作業が一段落すると、星さんが厚さ1センチほどの不純物の塊を見せてくれた。

 成分のほとんどはカルシウム。「カルシウムを結晶化して分離することで、純度の高い山塩にする必要があるんだ」。雑味をなくすために手間が掛かる作業だが、評判の理由だ。

 次の日に会津山塩企業組合を訪れると、乾燥した山塩と対面できた。一つ一つの粒が光に反射してきらきらしている。後は商品詰めだと思っていたら、渡されたのは山塩を詰める袋ではなく、ピンセットだった。

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 会津山塩企業組合 2007(平成19)年に地元有志によって設立された。山塩の生産量は設立当初、年間1トン弱だったが、数回の工場移設を経て現在は年間4トンに増えた。山塩を使ったせんべいやラーメン、せっけんなどの商品も開発販売している。