【TRY・登り窯(下)】まきを投入、作品の模様や色合い作り

 
学さん(左)に見守られながら登り窯にまきを投げ入れる記者。猛烈な熱さから終始、腰が引けていた

 登り窯の扉を開けると、窯の中は猛烈な勢いで真っ赤に燃えていた。ピーク時の温度は1300度。熱気が体に当たり、痛みを感じるような熱さの中、次は作品の模様や色合いが決まるまき入れだ。(いわき支社・緑川沙智)

 いわき市四倉町にある大堀相馬焼の窯元「陶吉郎窯(とうきちろうがま)」で重要な作業に突入した。「生き物を扱うように考えるんだ」。指導してくれる近藤学さん(67)の声が響く。

 登り窯は電気窯やガス窯と異なり、火の調整は24時間。燃料となるアカマツのまきを窯へ投入することが必要だ。まきは灰になって作品に降り掛かり、溶けてさまざまな模様や色合いになるため気が抜けない。

 簡単にまきを投入する学さんをまね、窯の中へまき1本を投げ入れたが、重くて狙った場所にいかない。何度も挑戦してやっと成功する感じだ。「この作業を5日間にわたってやるんだ」と学さん。長男賢さん(40)と昼夜2人態勢で、約2万本のまきを燃やす。頭が下がる思いだ。

 途中だが、仕上げは2人に任せて20日間待つことに。約束の日に窯を訪れ、約800個の作品を一つずつ慎重に取り出していく。きちんと形になっているだろうか。緊張と期待が入り交じる。

 学さんが「良い出来じゃないか」と焼き上がった作品を手渡してくれた。陶器の側面は登り窯特有の赤茶色で、縁には灰が溶けて緑がかった模様が付き、何とも趣深いデザインだ。

 「作品は作り手の分身なんだ」。作品を手にした学さんの言葉に、ものづくりに対して一切妥協せず、伝統文化を守る陶芸家の覚悟を感じた。

 勤務後、念願の瞬間がやってきた。出来上がった陶器にビールを注ぎ、縁に口をつける。陶器の表面のざらつきで泡が滑らかになり、口当たりがいい。喉ごしも最高だ。ふと、登り窯を前にした時の熱気やものづくりに懸ける学さんらの思い、教わった言葉の数々が浮かんできた。それをかみしめながら味わうビールは、格別だった。

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 登り窯 江戸時代から続く古来のまき窯。大堀相馬焼では、1960年代ごろまで主流の窯だったという。登り窯は傾斜に沿って建てられている。複数の焼成室に分かれ、一番下から一部屋ずつ焼き上げていく。下から上の部屋へと火が移動し、最上部の部屋の先には煙突が続いている。