【TRY・イノシシ駆除(上)】決闘へ足跡調査、鉄製箱わな武器

 
記者(中央)が歩いていたのは獣道だったが、そこにはイノシシ数頭が歩いたとみられる足跡があった。イノシシの歩いた方向を指さす長谷川さん(左)

 農作物を狙う野生動物がいる。そう、イノシシだ。小野町の山間部で生まれ育った記者には苦い思い出がある。「またやられたよ...」。イノシシは、祖父母が丹精して作物を育てる野菜畑にいつの間にか入り込み、食い荒らしていった。(県北支社・石井裕貴)

 着任したばかりの伊達市も脅威にさらされていた。もう放ってはおけない。姿は脳裏に焼き付いている。「決闘」に向け、駆除の最前線で立ち向かう伊達市鳥獣被害対策実施隊月舘地区隊を急いで訪ねた。

 協力してもらったのは、イノシシ駆除歴、約45年の大ベテランで隊長の長谷川藤吾(とうご)さん(68)と隊員の斎藤正義さん(65)。「トウゴ」と聞いて真っ先に人気漫画「ゴルゴ13」の主人公のスナイパー・デューク東郷が思い浮かんだ。

 しかし、長谷川さんは今回の駆除でライフル銃を使わない。高さ1メートル、幅2.45メートルある鉄製の箱わなが武器だ。イノシシは冬眠しないことから、被害は一年中だ。特に被害が出ているという畑近くに着いた。

 「お、来てるな」。長谷川さんの表情が変わった。記者が歩いていたのは獣道だったが、そこには何者かが歩いた足跡があった。イノシシ数頭が歩いたとみられる足跡だ。

 えさを食べた跡もある。一刻も早く捕獲したい。幼少期の苦い記憶がよみがえり、気持ちが高ぶってきたが、駆除するにはルールがある。長谷川さんが一言。「イノシシの捕獲は、狩猟免許と捕獲の許可が必要なんだよ」

 地域から「イノシシに畑が荒らされている」「サルにモモが食べられている」といった鳥獣被害の情報が市に寄せられると、市から捕獲許可が出され、駆除に向かうのだ。

 今回も同じだ。2人は捕獲許可を受け、約1カ月前から「あいつ」を追っていた。「本当は警戒心が強いはずなんだが、ここのシシは度胸がある」。長谷川さんはこう表現。その闘いに加わった。

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 伊達市鳥獣被害対策実施隊 現在の隊員は77人。駆除対象はイノシシ、ニホンザル、ハクビシン、タヌキ、カラスなど。近年は、高齢化で隊員確保が年々難しくなっており、狩猟免許の取得を支援するなどして、担い手育成に力を入れている。