【TRY・グラウンドキーパー(下)】砂の重みが仕事の重み

 
めくれた芝を除去しながら、砂を入れる補修作業に取り組む記者。根気のいる作業が続いた

 芝刈り機での作業は氷山の一角。次は選手のプレーで削れた天然芝の補修作業に入った。(報道部・安達加琳)

 「Jヴィレッジの芝は、ほとんど農薬を使わないオーガニックなんだよ」。斉藤健さん(46)らグラウンドキーパー6人は全国的に数少ない有機農法で芝を育てていて、踏んでも倒れにくい芝だが、プレー後にはどうしても入念な補修が必要になってしまう。

 ピッチの近くにはきめ細やかな砂が入ったバケツが何個も並んでいた。「穴が開いているので、砂を入れて平らにならしましょう」と斉藤さん。バケツ1個当たりの重さは10キロほどだろうか。砂を持ちスパイクでめくれた芝を除去。削れた場所に吸水性の高い砂をまき、表面を凸凹がない均一な状態にしていく。

 慣れた手つきで砂をまく斉藤さんをまねながらの作業。気付くと、ピッチの端から端まで、どんどん作業を進める斉藤さんの姿が小さくなっていた。

 このほかにスプレーヤーと呼ばれる機械で肥料をまく作業をはじめ、ピッチに埋め込んだスプリンクラーでの散水など数多くの作業をこなさなければならない。Jヴィレッジには天然芝ピッチが国内最大級の8面もあるだけに、作業は膨大。斉藤さんも「プレッシャーも8倍ですよ」と笑うほどだ。

 すると作業中に雨が降ってきた。雨はグラウンドキーパーにとって命取り。芝の手入れを中止しなくてはならない。そのため、スマートフォンで雨雲レーダーを常に確認しながら作業スケジュールを組み立てる。実はこの日も雨予報が出ていたため急ぎ足で整備していたのだ。グラウンドキーパーの仕事の奥深さと緻密さを肌で感じた。

 作業中、斉藤さんが天然芝にこだわる理由が気になってきた。聞いてみると、「スライディングをしてもかすり傷で済むのは、天然芝が支えてくれているからなんだよ」と答えてくれた。有機農法で手間が掛かる作業に費やす理由は、健康で丈夫な芝は選手の体への負担が少なく、パフォーマンスを最大限に引き出すことにつながるからだという。

 地元の子どもから代表選手まで幅広い選手が利用するJヴィレッジ。斉藤さんは「Jヴィレッジにふさわしい県内の若いキーパーを育てたい」と夢を語ってくれた。一時は原発事故収束の前線基地となりながら復活した日本サッカーの聖地。情熱あふれる人たちが支えていた。

          ◇

 グラウンドキーパーの一日 作業は午前7時ごろから始まり、夕方に終える。Jヴィレッジから委託を受けたスポーツ用芝生の管理を手掛けるオフィスショウ(東京都)の社員が整備している。