【TRY・騎馬武者(中)】心が通った?少しずつ「人馬一体」

騎馬武者たちの朝は早い。夜明けの早朝4時には身支度をし、通学や出勤前の時間を利用して馬の世話や乗馬の練習に励んでいる。(浪江支局長・渡辺晃平)
一方、夜型生活だった記者にとってはつらい日々が続いた。「きょうも大事な取材があるし、もう少し寝ていたい」。布団の中で葛藤したが、師匠の松浦秀昭さん(78)の声が脳裏をよぎる。「騎馬武者になりたいなら100回は乗れ」。馬にむちを使う前に、自らにむちを打つ生活が続いた。
トライの目標は、相馬野馬追の行列に参加できるほどの馬術の基本を身に付けることだ。「進め」「止まれ」「曲がれ」の三つを習得し、馬をコントロールする。馬と心を通わせる人馬一体。いや、ギリシャ神話に登場する半人半獣のケンタウロスにならねばならない。
「遠山霞(えんざんかすみ)を見るが如(ごと)し。視線は遠く、姿勢よく!」。松浦さんの指導は続く。背筋をピンと伸ばし、肩の力を抜く。両ひざを馬体に沿うように締め、鐙(あぶみ)と呼ぶステップに足を乗せて、かかとを下げる。へその前で手綱を握り、馬に動作の合図を送る。
「進め」は両足で馬のおなかを軽くぽんとたたく。「止まれ」は体を少し後ろに傾け、ゆっくりと手綱を引く。「曲がれ」は行きたい方向の手綱を引き、馬の首を曲げて進む。
6月初旬に特訓を始めてから2週間。乗馬に対する緊張感が徐々になくなってきた。馬も記者の心情を察してか、記者の意図を受け止めて動いてくれるようになってきた。「よしよし」。馬の首をぽんぽんとたたいてスキンシップを図る。馬の体温は38度と、とても温かい。
乗馬後は馬具を取り外し、汗をかいた馬体をタオルで丁寧に拭き取る。ブラッシングをすると、馬の両耳が横を向き、口を開けたりして気持ち良さそうな表情だ。
馬と共生するまち南相馬。騎馬武者たちは日々、馬と絆を強めている。騎馬武者は相馬野馬追が行われる3日間のため鍛錬を積み、人馬一体の雄姿を見せているのだ。
野馬追に出場するとなれば、馬術だけでなく、馬や馬具の取り扱いなども覚えなければならない。そこに大勢の家族や仲間のサポートが加わる。記者が騎馬武者になるための道のりはまだ遠いが、中ノ郷騎馬会長の中島三喜さん(73)から再び厚意をいただいた。「今度は試しに甲冑(かっちゅう)を着て乗馬してみますか」
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相馬野馬追の出場馬 相双地方では約200頭の馬が飼育され、騎馬武者たちが自宅の馬場などで飼っている。県内外の乗馬クラブなどから馬を借り、野馬追に出場する人もいる。相馬野馬追執行委員会によると、東日本大震災後、野馬追の出場騎馬数は約400騎で推移している。