【TRY・福島県警機動隊(下)】命救う、隊員同士の絆

 
救助訓練に臨んだ隊員たちと集合写真に納まる記者(前列中央)。数時間のみだったが、隊員と絆が深まった気がした

 基礎訓練を終えると腕や足は重く、思うように動かない状態だ。しかし、隊列に加わっての訓練で勝手ながら仲間を思う隊員意識が高まり、さらに一緒に活動したくなってきた。次なる課題は救助訓練だ。(報道部・副島湧人)

災害専門の部隊へ

 見覚えのある黄色と青色の服を手渡された。災害現場で活躍している災害対策専門の広域緊急援助隊(広緊隊)の災害活動服だ。「隊員以外で着る機会はないよ」との言葉を受け、光栄に思いつつ袖を通す。

 広緊隊は大規模災害などが発生した際、人命救助などに当たる精鋭部隊だ。管轄する県警単独での対応が難しい場合に、全国各地から警察官が集まって組織される部隊で、福島県警機動隊員の一部が兼務している。7月に静岡県熱海市で起きた土石流災害でも活動した。

 一緒に訓練に臨んだ同学年の石井新巡査(23)も熱海市の現場で活動した隊員の一人。土砂の下に行方不明者がいる可能性があったため、捜索はシャベルによる手作業で「過酷だった」という。「こんなに訓練をしている隊員でそう思うのか」。厳しい現場の様子を思い浮かべた。

 貴重な話を聞きながら訓練現場に到着すると、災害現場を模した場所には1台の廃車。「車の中に取り残された人を救出していきます」。指示役の塙健さん(34)から指示が下った。

 土砂で前方が阻まれた車の運転席に、1人が取り残されているとの想定だ。救出に向け、隊員が現場を確認しながら進めていく。要救助者の意識状況をはじめ、窓ガラスを割っての進入方法、窓ガラスが飛び散らないための配慮、要救助者への毛布掛けなど。

 全員が真剣な表情。ミスは許されないとの緊張感が漂う。そんな中、「割ってみてください」と塙さんから大役を任された。渡されたのは「ガラスクラッシャー」という先端がとがった用具。簡単に割れると聞いたが、窓ガラスに向けて振り下ろしても割れない。「もっと強く」とアドバイスを受けて数回振り下ろし、なんとか割ることができた。

 その後は、運転席のドアを切断する過程で使用する用具「スプレッター」を隊員と一緒に持った。約7キロもあり、記者は操作する隊員を後ろから支える役目だ。「力を合わせ、なんとか救い出したい」。そんな気持ちが込み上げてくる。

「常に限界を把握」

 ドアを切断し、要救助者をゆっくりとバックボードに乗せて救出に成功した。塙さんは「常に自分の限界を知り、現場で楽になるよう苦しい訓練をしている」と日々の心構えを語ってくれた。言葉には命を救うための覚悟と責任の重さがにじみ出ていた。記者が訓練を通して感じたのは、個の鍛錬はもちろんだが、それ以上に「集団」としての力だ。力を結集してさまざまな課題に立ち向かう姿は、県民の一人として心強く感じた。

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 広域緊急援助隊 阪神大震災での教訓を踏まえ、迅速で広域的に活動する災害対策専門の部隊として1995(平成7)年に発足した。高度な救出救助能力を持ち、大規模な災害が発生した場合に都道府県の枠を超えて救助に当たる。7月の静岡県熱海市で起きた土石流災害では、本県から隊員約30人が派遣されて活動した。