【養蚕(上)】愛込め育てる「蚕様」

 
黒沢さん(左)から蚕の広げ方を学ぶ記者

 「蚕様を育ててみない?」。福島市飯野町で代々養蚕業を続ける黒沢仁さん(66)=市議=から養蚕体験の誘いを受けた。蚕を直接見たり触ったりしたことはない。ただ、本県がかつて全国有数の養蚕地帯だったことは知っている。県民にとって身近な存在だったが、今は若い世代になじみが薄い。これを機に蚕を深く知ってみるか。養蚕へのトライを決めた。(報道部・津村謡

 桑の葉刻み、室温も気配り

 沢さん方は市内の田んぼや畑が広がる緑豊かな場所にあり、自宅脇の作業所で養蚕をしている。蚕はより良い生糸を効率的に生産するため品種改良されていて、幼虫はほとんど移動せず、成虫は羽があるのに飛ぶことができない。「蚕様は人が世話をしないと生きていけない。でも、繭糸は売り物になるから、農家にとって蚕に『様』を付けて呼ぶほど大事なんだ」と黒沢さんは話す。

 幼虫は卵からふ化すると4回脱皮する。幼虫は桑の葉をよく食べ、25日ほどで体重は1万倍に成長。脱皮前後で1齢、2齢...と呼び方が変わり、5齢まで成長すると糸を吐いて繭を作る。1、2齢は病気になりやすいため、減菌された稚蚕所で飼育されるのが一般的で、養蚕農家は3齢から育てるという。

 最初の作業は、黒沢さん方に運ばれてくる体長3センチほどの蚕を飼育用の棚に振り分けること。その数約16万頭(蚕は頭で数える)。飼育棚に広げると、無数の蚕がひしめき、もぞもぞと動く様子に息をのむ。「さぁ蚕様を満遍なく広げんだ」と黒沢さん。虫を触るのは苦手だが、勇気を振り絞って触れると、独特の柔らかな感触が伝わり身震いがした。

 薄暗い室内は3段の飼育棚が複数並び、床下でまきをたく暖房装置などで室温が23~24度に保温され、少し蒸し暑い。「次は蚕様に桑をあげっから」。柔らかい桑の葉を裁断機で細かくし、蚕に食べさせる。「もっと思い切って散らして」と助言を受け、勢いよく腕を振って均等に与えた。不思議なことに、作業に慣れてくると蚕が愛らしく思えた。

 作業が一段落し、黒沢さんに話を聞いた。かつては多くの養蚕農家があったが、今では市内で黒沢さんを含め2戸しかない。黒沢さんが養蚕を続けるのは「先祖代々続けてきたからやめるわけにはいかない。養蚕は伝統文化で後世に残したい」との思いから。熱意に感心していると「さて次の仕事をやるか」と声をかけられた。養蚕農家の忙しい日々は続く。

 県内の養蚕農家戸数の推移 江戸時代から盛んになった県内の養蚕業。県園芸課によると、最大戸数は1926(昭和元)年の9万3150戸。昭和中期以降、合成繊維ナイロンや海外からの安い輸入品が普及したことで年々減少の一途をたどった。2020(令和2)年現在、26戸にまで減っている。

          ◇

 記者への挑戦募集中

 企画「TRY」では、本紙記者にチャレンジしてほしいこと、体験を通して魅力や苦労を知ってほしいことを県民や企業・団体などから広く募り、記者がその"挑戦"を受けて体験、掲載していきます。

 申し込み、問い合わせは報道部にメール(hodo@minyu-net.com)で。はがきでの申し込みは郵便番号960―8648 福島市柳町4の29 福島民友新聞社報道部「TRY係」へ。氏名(企業・団体名)と住所、電話番号、挑戦してほしい内容を明記してお送りください。