【養蚕(下)】真っ白な「繭」ついに出荷

 
繭の選別をする記者

 福島市飯野町で養蚕を営む黒沢仁さん(66)方で、回転蔟(まぶし)から繭を取り出して収穫する「収繭(しゅうけん)」作業の日を迎えた。養蚕体験も大詰めだ。「蚕様がしっかりとした繭を作った。さぁ取り出していくぞ」と声を弾ませる黒沢さん。蚕は蔟の枠に行儀良く収まり、真っ白な繭を作っていた。(報道部・津村謡)

 光にかざし選別

 作業は、蔟の枠から繭を外す「自動毛羽(けば)取り装置」と呼ばれる機械を使い、一つ一つ取り出していく。大事なのは、機械に入れる前に光にかざして繭の選別をすること。「汚れていたり、通常とは違う大きさだと出荷できないから取り除いて」と黒沢さん。機械を通した繭は毛羽が取れて、とてもきれいだ。

 作業に没頭したが、蔟の枠は全部で約1500個ある。量の多さに気が遠くなった。脇では黒沢さんの妻真佐子さん(65)や母キミヨさん(88)が取り出した繭を再び選別して、出荷できない繭を取り除いていた。形の整ったきれいな繭を袋に詰めて、出荷準備を終えた。

 3日後の早朝、繭の出荷が同市飯野町で行われ、同市と川俣町の養蚕農家が繭を持ち寄った。ここでも養蚕農家が繭を選別し、出荷をする。育てた蚕との別れを惜しむ一方、生糸として使われることに充実感が湧いた。これで体験は終了。ふと黒沢さんを見ると「出荷の日が一番の喜び」とまぶしい笑顔をみせた。

 最後に養蚕の将来が気になった。県内の養蚕農家は減少している。「昔は蚕様の成育具合が隣近所の共通の話題で、あいさつみたいなもんだった。今は養蚕仲間がいなくて張り合いがない。時代の流れだね」。幼少から養蚕を行ってきたキミヨさんは寂しげだった。

 「課題は後継者不足や高齢化」と黒沢さん。本県は蚕の卵を孵化(ふか)させる蚕種製造業、蚕を1~3齢まで育てる稚蚕所、養蚕農家による分業で養蚕を続けている。かつては全国で同様だったが、現在は三者そろうのは珍しいという。「高齢化が進んでおり、今の形でいつまで養蚕ができるのか」と不安を口にする。

 体験を通して、本県の発展を支えた養蚕のやりがいや素晴らしさを感じた。後世に残すには、若い世代に魅力を発信すると同時に、行政が生産体制や流通を支えていくことが重要ではないだろうか。そんなことを考えていたら、出荷作業が一段落した黒沢さんがひとこと発した。「間もなく次の蚕様が来るから準備するか」。立ち止まることなく、先を見据えた。

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 県内の繭生産量の推移 県園芸課によると、本県の繭の最大生産量は1939(昭和14)年度の約1万7524トン。養蚕業の衰退により2021年度には約10トンにまで減っている。21年度の全国の生産状況は、本県は3位の生産量。トップは群馬県の約21トン、2位は栃木県の約11トンとなっている。

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