【火災原因調査(上)】焼け跡の手掛かりから油分を特定

 
挑戦を前に火災原因調査について学ぶ記者(右)。後ろの火災調査専用の車にはあらゆる火災に備え、さまざまな備品が並ぶ

 記者の役割の一つに、火災の状況などを取材して伝えることがある。「火災の原因調査をやってみませんか」。取材先の消防職員から声を掛けられた。聞き慣れない言葉に戸惑いつつ、「火災取材がさらに充実するかもしれない」と思い、県内で唯一、火災調査の専門部署を構える郡山地方消防本部に向かった。(郡山総支社・千葉あすか記者)

 出迎えてくれたのは、予防課火災調査係の国分貴志さん。まずは火災原因調査について聞くと、出火場所や原因を特定し、再発防止を目的に調査分析をするという。「消防の『縁の下の力持ち』とも言われます」と話す。

 火災調査係は国分さん含め3人。年間約100件あるほぼ全ての火災現場に行き、焼け跡に残されたわずかな手掛かりを発掘し、得られた証拠などから再発防止策を考える。「どんな現場でもあらゆる可能性を並べ、一つ一つ確認していくのが火災調査の基本です」

 国分さんら3人の横には、消防車より一回り小さい赤い車があった。火災現場に駆け付ける調査専用の車だ。トランクの中には工具や熊手などさまざまな備品が並ぶ。「あらゆる現場に対応するため、先人たちの教えに基づくアイテムが詰め込まれています」と国分さん。中でも欠かせないのが、ほうきとちり取り。この二つで、焼けたがれきの中からショートした導線など小さな手掛かりを探し出す。

 さらに3人のウエストポーチには「マイ・ドライバー」も入っており、焼けた電気機器の解体などを行う。ほうきとちり取り、ドライバーは、火災原因調査の三種の神器だ。

 いよいよ調査に取りかかる。現場で身に着けるジャケットと帽子を借り、いざ調査へ。

 黄「ガソリン」黒「灯油など」 検知器で調べてみると

 まずは、ガソリンや灯油などの油成分を調査する。油は出火原因や被害の拡大に大きく影響するため、現場ではほぼ必ず調査が行われるという。調査で欠かせないのがガス検知器だ。気化したガソリンを検知すると黄色に、灯油などの場合は黒く変化する。試しに、透明の液体が目の前に差し出された。ぱっと見は水にしか見えない。液体の上に検知器をかざすと、検知器の色がみるみる変わっていった。色は黄色。これはガソリンだ。「正解です!」。見た目では分からない成分が検知器によって判明した。

 「消防の根幹は火災をゼロにすること。そのためにわれわれの仕事があります」。焼け跡に残る小さな手掛かりや、空気中に漂う情報を探し出し、検証を繰り返す。消防業務の新たな一面を知った。ただ、次の調査でさらに奥が深いことを知ることになる。

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 郡山地方消防本部予防課火災調査係 県内唯一の火災調査の専門部署で、2019年に新設された。消防学校、消防大学校で火災調査についての専門教育を受けた職員で構成され、科学的な調査や分析に基づいた火災原因の特定を行う。

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