【11月14日付編集日記】ビクトリーブーケ

 

 55年前の東京五輪を、批評家の小林秀雄は「オリンピックのテレビ」という文章にまとめている。毎日、オリンピックばかり見ていて何もしなかったという小林は、ある円盤投げの女子選手にくぎ付けになった

 ▼小林は、選手が緊張した表情と切迫した動作でしきりに円盤に唾を付けるのは、どんな心理、感情表現だろうと考えていた。解説者の「口の中はカラカラなんですよ、唾なんか出やしないんですよ」という声に、映像が口を利いたように感じたという

 ▼来年の東京五輪、パラリンピックのメダリストに副賞として贈るビクトリーブーケ(勝利の花束)に、本県産の花が取り入れられることになった。トルコギキョウを五輪とパラ、ナルコランを五輪用に使う

 ▼本県産のほかに東日本大震災で被災した宮城、岩手両県産の花も使われる。美しい花々で震災からの復興と、世界中から寄せられた支援への感謝を発信する。生産者にとっては大きな励みになる

 ▼トルコギキョウには「希望」「すがすがしい美しさ」などの花言葉がある。テレビ画面に映し出される表彰台で、メダリストたちがブーケを掲げる映像に、余計な言葉は要らないだろう。美しい花々に世界中から視線が集まる。