【5月5日付編集日記】よみがえった食膳

 

 江戸幕府が全国に派遣した巡見使は、各藩の事情や地域の現状などをつぶさに報告することが任務だった。受け入れる藩や地元住民は接待も含め、準備には並々ならぬ気配りが求められたらしい

 ▼地理学者の古川古松軒(こしょうけん)は江戸後期、巡見使の一行に加わり本県を旅し、紀行「東遊雑記」で体験を伝えている。現在の昭和村を訪れた際はゼンマイなどの山菜や川魚のアカハラ、ヤマメに目を向けている。西日本出身の古松軒には、見慣れない食材や調理法が印象深かったようだ

 ▼同村の地域づくりを進める実行委員会は地元に伝わる古文書を手掛かりに、巡見使らをもてなした当時の料理を再現、食材や献立などを解説した冊子を発行した。村の歴史や食文化を見直し、魅力を掘り起こすのが狙いだ

 ▼約230年の時を超えてよみがえった食膳には、奈良茶づけや小豆粥(がゆ)、焼き豆腐の汁物などが並び、山芋、ワラビなどを使った滋味に富む料理が目を引く。山間部ながら鯛(たい)の料理もあり、歓待への心遣いが伝わる

 ▼冊子は今月、村内各戸に配布予定で、さまざまな場面でもてなしの献立として活用を進めるという。歴史が息づく料理からは村民の真心を添えた絶妙な味わいが感じられるだろう。