【10月28日付編集日記】名前

 

 読書週間が始まった。平安時代に本の虫の元祖というべき存在がいる。菅原孝標(たかすえ)女、教科書にも登場する「更級日記」の作者だ。地方で暮らしていた彼女は京や「源氏物語」の世界への憧れを募らせていた

 ▼家族とともに京で暮らすことになった彼女は源氏物語を早速入手し、昼夜を問わず読みふける。日記にはその心境を「后(きさき)の位も何にかはせむ(物語に比べればお后の位が何だというのだろう)」と書いている。お目当ての本を読むことのかなった喜びが伝わってくる

 ▼孝標女の「女」は、娘の意味。平安時代の女性の名前は、よほど高貴な身分でない限り周囲に知られることはなかった。有名な紫式部、清少納言も役職による呼び方で本名ではなかった

 ▼当時は名前には特別な力が宿っているとされ、他人には知られないようにしていた。女性の名を知るには結婚するほかなく、和歌を贈り、自分の能力や人柄を知ってもらう必要があった

 ▼たまには読書を―と本を開いてみたが、候補者名の連呼が気になり、すぐに閉じた。走行中の選挙カーでは名前の連呼しかできないと公選法で決まっているそうだ。候補者にも、名前より先に知ってもらいたいことがたくさんあると思うのだが。