【10月13日付社説】ノーベル化学賞/浜通りから新技術を世界へ

 

 今年のノーベル化学賞が、旭化成名誉フェローの吉野彰さんら3人に贈られることが決まった。受賞の理由は「リチウムイオン電池」の開発だ。

 リチウムイオン電池は、繰り返し充電して使える「2次電池」の一種だ。吉野さんらの研究で、1990年代初めに実用化された。小型で軽く、ため込める電気の量が多いため、スマートフォンやノート型パソコン、人工衛星の動力源などに幅広く使われている。

 吉野さんの技術開発がなかったならば、さまざまな機器をどこにでも持ち運び、いつでも便利に通信できる現在の情報化社会は成立しなかった。人類の発展に貢献した業績であり、まさにノーベル賞にふさわしい研究と言えよう。

 受賞の背景には、さらなる社会の変化をもたらす技術として注目されていることもあっただろう。リチウムイオン電池は近年、二酸化炭素を出さない移動手段として注目される電気自動車(EV)への活用が進んでいる。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを、安定して利用するための蓄電装置への応用も期待される。

 吉野さんは、福島民友新聞社が2018年にいわき市で開いた「ふくしま再生可能エネルギーシンポジウム」で、2025年ごろには新たな変革が訪れるだろうと予測していた。道路には人工知能(AI)が自動運転するEVが行き交う。個人の所有ではなく、多くの人と共有するルールで、使い終わると「充放電ステーション」に戻る仕組みだ。使用する電気は再生可能エネルギーなどが役立てられ、地球環境に優しい車社会が実現する―という見立てだ。

 今回の受賞は、日本が「技術立国」として態勢を整え直すチャンスだ。国が大学などを支援することで基礎的な研究成果を数多く生み出し、その研究を企業の技術者が知恵を絞って実用化していく流れを強化したい。着実に努力を重ねていけば、吉野さんが描く将来像は現実のものとなるはずだ。

 吉野さんは、シンポジウムで「新技術の研究には、実証モデルが必要です。福島県で、できればいわきで実証できれば喜ばしい」とも語っていた。

 同市では、吉野さんと親交の深い東洋システムの庄司秀樹社長らが中心となった「いわきバッテリーバレー推進機構」が活動している。産学官で次世代自動車などに使う蓄電池(バッテリー)に関連した産業の振興を目指している。

 世界でまだ見ぬ技術革新を浜通りから。吉野さんのノーベル賞受賞から夢が広がっていく。