【4月10日付社説】処理水の海洋放出/信頼を得る努力が不可欠だ

 

 東京電力福島第1原発で汚染水を浄化した後の放射性物質トリチウムを含む処理水の処分について、政府が海洋放出の方針を固めた。13日にも正式決定する。処理水の問題に道筋をつけ、廃炉を進めていくことは本県復興の前提だ。政府と東電は、処分が復興を妨げることのないよう、全力を尽くさなければならない。

 海洋放出に当たっては、安全性に疑いを持たれないようにすることが大切だ。国内外の原発で排出されているトリチウムを含む水と同等に安全であることを示すためには、放出前の処理水を薄める作業などの透明化や、放出前後の海水の放射性物質濃度のモニタリング強化などが必要だろう。

 梶山弘志経済産業相は先月、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長と会談し、処理水の処分方針を決めた際にはIAEAが決定内容を精査することなどについて合意した。IAEAを含めた第三者機関の協力を得ながら、安全性を担保していくことを国内外に示すべきだ。

 菅義偉首相は7日に全漁連の岸宏会長らと面会し、意見を聞いた。岸会長は「反対の立場はいささかも変わらない」と、海洋放出に反対する立場を改めて表明した。漁業関係者は、海洋放出が風評被害を招き、深刻な影響が出ることを懸念している。

 漁業をはじめ、農業、観光など風評被害が不安視される産業は多岐にわたる。実際に海洋放出が始まるまでには、2年程度かかると見込まれている。政府や東電は、風評被害を抑えるための対策、被害が出てしまった場合の対処法などを早期に示し、漁業関係者などから理解を得られるよう説明を続けることが求められる。

 政府の小委員会が昨年2月に、海洋放出の利点を強調する報告書をまとめてから、方針を固めるまでに1年以上かかっている。県内の自治体や産業団体などから意見を聞いた上で、昨秋には海洋放出の方向性を示そうとしたものの、漁業者などの強い反発を考慮して決定を見送った。

 昨秋からの半年間、政府は「先送りできない」と繰り返すばかりで、国民の処理水に対する理解を深めるために何をしたのか見えてこない。処理水の保管量がさらに増えたことを除けば、状況は何も変わっていない。

 政府が調整力を発揮できず、決断を先送りしたことが、処理水の処分に対する不信を招いている。処分開始に向けて、政府がどう信頼を回復していくのか、手腕と覚悟が問われる。