【9月15日付社説】処理水の風評被害/放出始める前こそが重要だ

 

 東京電力福島第1原発で発生する、放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出が再来年の春にも始まる。風評被害の発生を抑えるのは政府の責務だ。

 政府が処理水放出に伴う風評被害対策をまとめた。2本の柱として、情報発信の強化などにより風評を生じさせないこと、影響を受ける事業者への支援や賠償などにより事業を継続、拡大できるようにすることを掲げた。

 政府は「今後も現場の実態を常に把握し、必要な追加対策を機動的に講じていく」と長期的に取り組む姿勢を強調している。ただ、最も風評が高まることが懸念されるのは、国内外の関心が集まる放出開始前後だろう。

 処分が始まる際に風評の発生を抑えられるかどうかが、被害の程度を左右する。政府はまず、放出するまでの取り組みに全力を注がなければならない。

 政府は処理水の処分に絡む動きがある度に、情報発信の重要性を強調し、丁寧な説明や、事実と異なる主張に対して科学的根拠に基づいて反論を行うとしてきた。しかし事故後10年を経ても新たな風評被害が懸念される一因には、これまでの情報発信が十分な効果を上げていないこともあるだろう。

 政府は効果的な情報発信の在り方や、風評被害の発生する仕組みの分析を進め、その成果を具体的な施策につなげる必要がある。

 政府が放出作業の安全性、透明性の発信に重点を置くのに対し、県は本県の魅力の発信に力を入れる考えだ。各分野で訴求力のある人を通じて、日本酒や果物など評価の高い県産品や観光地のイメージアップを図ることにしている。

 参考になるのは、福島市で行われた東京五輪ソフトボール競技で米国代表の監督らが県産モモを「おいしい」と述べ、会員制交流サイトなどを通じて大きな反響を呼んだ事例だろう。これらの発言の好影響は計り知れない。県は、こうしたケースを増やせるよう知恵を絞ってもらいたい。

 政府は、海洋放出による風評の影響が懸念される水産業の支援として、需要が減少した場合に水産物を一時的に買い取る基金を創設するとしている。東電に適切な賠償を行うよう指導するほか、新規就業者の確保にも取り組む。

 県担当者は「風評被害が長く続けば、被害を受ける産業の担い手が減り、産業そのものが先細りする恐れがある」と懸念する。政府には、処理水の安全な処分と各産業の成長の両立が復興の前提であると肝に銘じ、施策の充実を図っていくことが求められる。