渡辺一成「故郷に勇気」 自転車ケイリン、集大成...感謝のレース
ケイリン発祥国としてのプライド、そして古里への思いが体を突き動かした。自転車男子ケイリンで2回戦進出を逃した渡辺一成(33)=日本競輪選手会福島支部、小高工高卒。並々ならぬ決意を胸に、3度目の五輪に臨んだ。
「競輪」と「ケイリン」は、自転車や会場の規格が異なり似て非なる競技。発祥国の日本勢も国際大会では苦戦を強いられてきた。
渡辺は2月に競輪の全日本選抜を制覇。デビュー14年目で念願のG1初優勝を飾り、年末のグランプリ出場権を一番乗りで得た。このまま国内で競輪を続けていれば、安定して賞金を上積みできたかもしれない。しかし、渡辺は初出場した2008(平成20)年北京五輪から、競輪とケイリンで二足のわらじを履き続けている。「五輪の真剣勝負は言葉では表現できないほどの魅力がある」。観衆も純粋な気持ちで競技にのめり込む。北京はチームスプリント6位、12年ロンドンはチームスプリント8位、ケイリン11位。世界との差を痛感させられ、悔しさも原動力だった。
今年5月に待望の長男が誕生。「何かを極めてほしい」との願いを込めて「壱(えーす)」と名付けた。「子どもの存在は大きい。記憶と記録に残れる存在になりたい」。父親になったことは、競技生活にも大きな影響を与えた。
期待を背負い、万全を期して迎えた集大成のレース。目標のメダルには届かなかったが、渡辺は「肩の荷が降りた気持ちがする」と、熱戦の余韻が残るトラックを見詰めた。「ここまで導いてくれた監督や家族に感謝したい」。支えてくれた人を思い浮かべると、こみ上げる涙を抑えきれなかった。
震災、原発事故の被害が大きい双葉町出身。「被災地の代表」として、計り知れない重圧と闘いながら、ペダルを踏み込んできた渡辺。苦難に立ち向かい、大舞台に立った姿は多くの町民や県民を勇気付けた。
双葉町民「頑張って」
渡辺一成の家族と地元の双葉町民が16日、いわき市の双葉町いわき事務所に集まりレースを観戦、約50人で熱い声援を送った。
設置されたスクリーンにインターネット配信の映像が映し出され、レースが始まると会場の熱気は最高潮に。「頑張って」「いいぞ、行け」と次々と声が上がった。避難先の神奈川県大和市から駆け付けた父善行さん(67)は「厳しいレースだったが、最後まで諦めないで走っていた」と息子の走りを目に焼き付けていた。
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