【挑戦・東京五輪】陸上男子5000・遠藤日向 崖っぷちの「勝負」

 
東京五輪を目指す遠藤。24日開幕の日本選手権で代表を目指す(住友電工提供)

 「自分の走りをすれば絶対に出場できると信じている」。陸上男子5000メートルの遠藤日向(22)=住友電工、学法石川高卒=は米国で積み重ねてきた練習に自信を見せる。「世代最強」と評され続けてきた中距離のホープは、米ポートランドを拠点に「東京」に向けて走り続ける。

 負け知らず

 中学時代から中距離界で最強の名をほしいままにしてきた。全中とジュニアオリンピック3000メートルで2冠を達成。高校では全国高校総体日本人1位、国体少年3連覇(1年3000メートル、2、3年5000メートル)と、中高時代の全国では負け知らず。ライバルたちがペースを乱そうともラストスパートで抜き去り、先頭でフィニッシュテープを切った。

 2017(平成29)年、高校卒業後に選んだのは実業団だった。大学を経て実業団入りする選手が多い中、あえて厳しい戦いの中に身を置いた。視線の先には世界、そして東京五輪があった。

 すぐに頭角を現した。18年1月の全日本実業団対抗駅伝で1区を走り、区間賞の1位でたすきをつないだ。

 同年5月には単身渡米し、多くの五輪選手を輩出する米陸上のプロクラブ「バウワーマン・トラッククラブ」の門をたたいた。拠点の米ポートランドには陸上トラックのほか、芝生やウッドチップなどの豊富なコースと、世界一流のチームメートが集う。酸素の薄い高地へ赴いての合宿も続けてきた。19年2月、室内競技大会で13分27秒81の日本記録(室内)をマーク。世界で戦える力がついてきたと実感を持った。20年7月には、自己ベストを更新する13分18秒99。五輪参加標準記録まで5秒に迫った。

 思わぬ暗転

 しかし、順調だった競技人生は壁にぶち当たる。新型コロナウイルスによる五輪1年延期と、アキレス腱(けん)の故障。母校の先輩相沢晃(23)が1万メートルで代表に内定した昨年の日本選手権は、けがの影響から出場すらかなわなかった。

 今は再び高地で厳しい練習の日々を送る。陸上の東京五輪最終代表選考会となる日本選手権は24日開幕。「崖っぷちに立たされている感じですね。でも最後まで諦めない」

 世界見続けた自負

 運命の日本選手権まで残り1カ月となった5月下旬。陸上男子5000メートルで東京五輪出場を目指す遠藤日向の姿は、米ソルトレークシティーにあった。標高1000メートルを超える高地での合宿。「毎日がきついんですけど、順調にきている」。五輪延期後に負ったアキレス腱(けん)の故障も癒え、準備は整いつつある。

 負荷が裏目

 故障の原因は、負荷の高い練習に取り組み過ぎたことが原因だった。一流選手が集う米国での練習は走り込み一つとっても高いレベルが求められ、知らないうちに体への負担となっていた。新型コロナウイルスの感染拡大で一度は帰国したが、1月に再び渡米し、米国滞在は5カ月になる。酸素の薄い高地での走り込みを重ね、スピードを維持しながら5000メートルを走り切れる心肺の強化に取り組む。

 充実した練習は積めているが、復帰後に挑んだ3、4月のレースでは納得がいく記録は残せなかった。昨年の日本選手権欠場で、思い描いてきた五輪出場のプランも一時は白紙に戻った。「けがは割り切るしかない。でも駄目な部分は分かっているつもり」と遠藤は言う。今は最後のチャンスである日本選手権の優勝を絶対条件に気持ちを切り替える。「次のレースで失敗したら五輪への道は厳しくなる。でも次は走れると思う」

 思いの違い

 今春、高校時代にしのぎを削った大学生ランナーたちが続々と実業団入りした。箱根駅伝や大学陸上界で活躍し、同じ土俵に立った同級生とはオンラインで話す機会があったという。そこで感じたのは、陸上に懸ける思いの差だった。遠藤は高卒での実業団入りという厳しい道を選び、ここまで実績と経験を積み重ねてきた。だからこそ「これから一緒にレースをする楽しみはあるけれど、勝負に関しては見ているところが違う」との自負をにじませる。その上で「自分はずっと世界を見てやってきたから」と言葉を続けた。

 東京五輪を夢見たのは中学3年の時だった。成長とともに夢は目標に変わり、最短距離で五輪への道を走ってきた。手の届くところまできた五輪の切符。逃すわけにはいかない。

          ◇

 東京五輪開幕まで2カ月を切った。代表内定選手は己の肉体と技に磨きを掛け、出場を目指す選手たちは最後の好機をたぐり寄せようと1分1秒を争う。東京五輪に懸ける県勢アスリートの姿を追う。

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