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 理不尽な患者
【8】―2009.01.13
理不尽な患者
患者からの苦情などについてまとめた医療機関のファイル。各医療機関にとって理不尽な要求は悩みの種だ
モンスターペイシェント 

 明確な定義はないが、自分勝手で理不尽な要求を医療機関に向ける患者を指す。看護師や医師への暴行、暴言なども含まれる。対応への労力を割かれ、医療サービスの提供に支障が出るほか、治療費の未収問題にもつながるとされている。
第1部
医師と患者
 
― 権利意識振りかざす  ―
 
 理不尽な要求を繰り返す患者(モンスターペイシェント)への対応が医療機関の間で問題となっている。「どこの病院でも同じような経験があると思いますよ」。県北地区の病院関係者は昨年の出来事について語りだした。
 比較的症状が軽い脳梗塞(こうそく)で高齢の男性が救急車で運ばれてきた。治療を施し、同居する家族に退院を促すと「会計担当者の態度が気に入らない」「照明が暗い」などと苦情をまくしたて、退院を先延ばしにした。その後も退院を促すたびに苦情は続き、最後には話し合いにも応じなくなった。
 病院側が調べると、在宅での介護を嫌がり、入院を継続して病院を介護施設代わりにしたい家族の思惑が浮かび上がった。病院側は疎遠になっていた男性の親族の説得にも取り組み、退院に結び付けた。この間、多くの職員の労力が割かれた。病院関係者は「医療機関は治療が本分。患者のためとは言え、手掛ける必要のないことまでやっているのが現状」とつぶやく。
 別の理不尽な要求の例からは、社会そのものが抱える課題も垣間見える。頭痛を訴えて診察を受けた男性が「医師の説明に納得できないので金は払わない」と声を荒らげた。病院側は「肩凝りの頭痛だから心配しなくて良い」と説明したが、男性は「何か病気があるはずだ、入院させろ」と引かない。話を聞くと最後には「行き場がないから入院したい」と本音を語った。男性は保険にも加入していなかった。経済的に追い詰められた人がゆがんだ形で病院に助けを求めていた。
 一方で、対応に追われる病院に差し伸べられる手は少ない。「帰る金がないから金をよこすか救急車で送っていけ」。このような要求に対しても、病院側はどこにも助けを求められない。
 病院関係者は「患者と医療機関の間の義務と権利のバランスを取り違え、誤った権利意識を振りかざす人がいる。しかし、必要な社会保障にたどり着けない、制度のはざまで助けが届かない人も多い。苦情に至る根は深く、医療機関だけでの解決は難しい」と、行政や地域社会も交えた対策の必要性を指摘した。
 


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