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自然との調和 中通り編
西郷村奥甲子の阿武隈川源流。川沿いには「秘湯」と親しまれた大黒屋の建物。甲子道路の開通で冬の源流の姿も身近になりつつある
ふくしま発 水のあした
第1部  暮らし支えて【1】
2010年1月3日付
自然との調和 中通り編

道路開通で奥甲子一変
 雪と氷に覆われた西郷村奥甲子の阿武隈川源流。水しぶきが岩肌に凍り付き、川底で水の流れに揺れる落ち葉が、白銀の世界に彩りを映し出す。
 中通りを南から北に貫き、宮城県から太平洋に注ぐ阿武隈川は那須甲子の山々に源を発し、いく筋もの沢が寄り集まって奥甲子の源流の流れをつくる。急峻(きゅうしゅん)な沢筋をたどると、落差40メートルの雄滝や15メートルの雌滝などの勇壮な景観が広がる。
 源流域には約100の滝があるといわれているが、源流沿いの地域で暮らす人々にとって雄滝と雌滝は特別な存在だ。雄滝は「水神」としてあがめられてきた。西郷村山岳会長の真船真さん(72)は「昭和30年ごろまでは、干ばつの年になると下流に住む人々が雄滝で雨ごいをした」と話す。農家の人々はかさをかぶり、わらじを履いて雄滝を目指した。
 近年、雄滝や雌滝、さらに上流の赤滝などを目指して源流に入るハイカーが増えた。雌滝手前の「ひとまたぎ」と呼ばれる沢幅1メートル程度の地点で、沢をまたいで記念撮影するハイカーが多い。真船さんら山岳会員はハイカーからの依頼があれば、ガイドとして源流を案内している。「普通のハイキングコースではないので岩肌が滑って危険な時もある」。真船さんらは、源流の魅力とともに「無事下山」の考えを伝える。
 奥甲子で2008(平成20)年9月、県南地方と南会津地方を結ぶ国道289号「甲子道路」が全線開通した。それまで国道289号は、車が通れるのは奥甲子までだった。
 「国道行き止まりの宿」「秘湯」と親しまれてきたのが、源流の沢の登り口に当たる元湯甲子温泉の旅館「大黒屋」。宿を切り盛りする取締役主任の草野正人さん(34)は「水道が通っていないので、飲料水は源流の沢から引いている」と、那須甲子の山々のブナやミズナラの原生林がはぐくんだ水を誇る。
 甲子道路の開通で大黒屋も様変わりした。「道路が完成し、若者の日帰り客が増えた」と草野さん。毎年、紅葉シーズンが終わり雪の季節を迎えると、宿は冬季の休業に入ったが、この冬からは通年営業で客を迎えている。車でここを訪れる人たちが、かつては見ることが難しかった源流の冬を楽しめるようになった。「源流の豊かな自然との調和を心掛け、後世に残す責任がある」と、草野さんの源流を愛する気持ちに変わりはない。
 


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