水のあしたTOP
農の営み 中通り編
パイプハウス内で大葉の生育状況を確認する秋山さん。阿武隈川から引く浜田用水の水が地域の農業を支える=須賀川市
ふくしま発 水のあした
第1部  暮らし支えて【2】
2010年1月4日付
紙漉き 中通り編

肥沃な耕地はぐくむ シソの葉やイチゴ栽培
 須賀川市と玉川村の境を接する阿武隈川の名勝・乙字ケ滝。「乙」の形に流れ落ちる滝の上流の堰(せき)から、須賀川市側に用水路が引かれている。同市南東部の前田川、和田、浜尾の3地区を流れ、再び阿武隈川に戻る「浜田用水」。水路の両岸には、収穫期を終えた田畑が広がる。
 浜尾地区に住む秋山幸吉さん(55)は、この浜田用水から水を引き、園芸農業を営む。
 秋山さんが手掛けるのはハウス栽培のシソの葉(大葉)やイチゴ。「園芸作物は屋内で育てるので、雨水は利用できない。この辺りの地下水はナトリウムが多いので使えず、やはり川の水が一番いい」と、阿武隈川の水の恵みに感謝する。
 浜田用水は全長約3キロ。約270ヘクタールの耕地を潤している。完成したのは江戸時代初期の1605(慶長10)年。大雨などの災害で幾度となく改修が繰り返され、400年以上にわたり地域の人たちの手で守られてきた。今でも農家の人たちが毎年、用水路の草刈りや、水路にたまった土砂を取り除く砂上げなどの手入れを行っている。
 前田川地区の農業鈴木和寿さん(79)は「用水には『万夫隧道』と呼ばれ、万人の村人の手で、山や岩をくり抜いて造ったトンネルもある。水路を築いた昔の人の苦労を忘れてはいけない」と浜田用水の大切さを切々と語る。
 阿武隈川の水がこの土地で、肥沃(ひよく)な耕地をはぐくんできた。浜田用水から水を引く周辺の耕地は元々、水稲や桑の栽培が盛んだった。稲作の減反政策、養蚕の衰退―。農政の変化や食生活の変化とともに地域の農業形態が目まぐるしく変わる。浜田用水の周りの地域で多くの農家が稲作、養蚕から一時期、リンゴ栽培に切り換えた。近年はリンゴ単価の下落が続き、ハウス栽培など施設園芸の産地に変わった。
 秋山さんは、地元の農家の有志7人と「有限会社すかがわ温室」を立ち上げている。企業経営として本格的な大葉の栽培に取り組み、年間約40万パックを北は青森から、南は九州まで出荷している。秋山さんの夢は「大葉やイチゴ栽培をより充実させて、経営の安定化を図る」こと。
 将来に向かって農業の営みを続ける人たちの夢も、阿武隈川の水の恵みがはぐくんでいく。
 


〒960-8648 福島県福島市柳町4の29
ネットワーク上の著作権(日本新聞協会)
国内外のニュースは共同通信社の配信を受けています。

このサイトに記載された記事及び画像の無断転載を禁じます。copyright(c) 2001-2004 THE FUKUSHIMA MINYU SHIMBUN