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紙漉き 中通り編
上川崎和紙の紙漉きを実演する遠藤さん。千有余年の伝統が受け継がれている=二本松市和紙伝承館
ふくしま発 水のあした
第1部  暮らし支えて【3】
2010年1月5日付
紙漉き 中通り編

文化を絶やさぬ決断 技術を守る和紙伝承館
 福島市と二本松市の境にある国道4号の「道の駅安達」。「智恵子の里」の愛称が付けられた道の駅の一角に、千有余年の和紙文化を伝える「二本松市和紙伝承館」がある。館内では和紙作りの実演コーナーが設けられ、伝統産業のPRに一役買っている。ここで和紙を漉(す)いているのは、和紙漉き指導員の遠藤哲也さん(37)。遠藤さんは木製の「漉桁(すきげた)」を水やコウゾ繊維の入った「漉き舟」に入れ、手を休めずに一枚一枚丁寧に紙を漉いていく。「1日に60枚程度しかできない」という手作業で、手間をかけて和紙を作る。
 遠藤さんが漉いている和紙は地元の上川崎和紙。阿武隈川の流れに臨む同市北部の上川崎地区で代々、技術が受け継がれてきた。最盛期には地区内の約400戸の農家が農閑期の仕事として紙漉きに励んだ。和紙作りに水は欠かせず、かつては栗舟渡場のあった阿武隈川の川べりで紙をすいた。数少ない紙漉き農家の安斎保彦さん(75)は「昔は阿武隈川の水を使っていたが、時代とともに川の水が汚れ、井戸水を利用するようになった」と話すが、「和紙作りには、厳冬期の冷たい川の水が最適だった。水が冷たい時でなければ、丈夫な紙はできない」と、阿武隈川の水の恵みを大切に思う一人だ。
 安斎さんの作業小屋には、1995(平成7)年の「ふくしま国体」で選手に贈られた表彰状が飾られている。当時、安斎さんら上川崎の紙漉き農家が昼夜を問わず制作に励んだ作品だ。「他県の選手から褒められた時は、本当にうれしかった」と懐かしむ。その後、上川崎の紙漉き農家は一軒一軒となくなり、安斎さんは、上川崎和紙に関する知識や技術のすべてを和紙伝承館に伝えた。上川崎和紙を絶やさぬための決断だった。
 上川崎和紙の伝統を守る役目を託された和紙伝承館には体験室が設けられ、地元小学生の体験学習を受け入れている。同市の杉田小では3年前から卒業証書に上川崎和紙を取り入れ、卒業間近の6年生が世界に一つだけの卒業証書作りに励む。斎藤史則教諭(48)は「自ら紙を漉いて作った和紙の卒業証書を受けることは、一生の思い出になる」。和紙作りに熱中する子どもたちの笑顔を見ながら、水にはぐくまれた和紙文化が受け継がれることを望んでいる。
 


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