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松川浦 浜通り編
アオノリの天然採苗ができる松川浦。ノリ棚にびっしりと生育したアオノリは松川浦の貴重な環境が生み出した
ふくしま発 水のあした
第1部 暮らし支えて【9】
2010年1月30日付
松川浦 浜通り編

命をはぐくむ汽水域 自然が作る特別な環境
 日本百景の一つに数えられる相馬市の松川浦県立自然公園。冬の時期、日の出とともに何台ものボートが航跡をつくる。ボートの目指す先はアオノリの養殖場であるノリ棚。ノリ棚が水に隠れる満潮時に収穫されるが、「雲の様子と海の様子で満潮の時間がだいたいわかる」と、50年以上にわたりアオノリを養殖している草野裕抵(ひろやす)さん(71)。毎朝、寒風にさらされながら、収穫作業に精を出す。
 松川浦は相馬市を流れる宇多川、小泉川の水が流れ込む潟湖(せきこ)。海水と淡水が混じる汽水域でもあり、自然が作り出した特別な環境に、多くの生物が生きる。ノリ棚を沈めておくだけで自然とアオノリの種が付く「天然採苗」ができる場所だ。
 相馬双葉漁業協同組合松川浦・松川支所支部長兼業務部長の岡村祐一さん(53)によると、ここ4、5年は天ぷらやお吸い物などアオノリの用途が増えたため値段が急騰しているという。岡村さんは「地元の良いものを多くの人に知ってもらえれば。販路が拡大していることは一つの成果」と誇らしく語る。
 汽水域は、一定の塩分濃度が保たれることで生き物の命をはぐくんでいる。流れ込む川の水が多いと塩分濃度が下がり、逆に海水が多いと塩分濃度が上がり、どちらも生き物の成長に影響を与える。天然採苗ができるということは、松川浦が貴重な水資源である大きな証しだ。
 松川浦の生態調査などを行っている同市の環境保護市民団体「はぜっ子倶楽部」代表の新妻香織さん(49)は「見えるものや見えないもの、いろいろな生物が水質のバランスをとっている」と話す。松川浦のヨシの密生地には、自然環境の尊さを示す代名詞ともいえる絶滅危惧(きぐ)T類のヒヌマイトトンボが生息、ほかにもハマサジ、シバナといった植物など、貴重な生態系が存在する。水中にはカキやアサリ、ゴカイなど水質を浄化させる働きを持つ生物がすむ。
 松川浦の汽水域は自然がつくる絶妙なバランスで環境が保たれている。注ぎ込む川、海の水質はそのまま松川浦の生態系に影響を与える。「貴重で多様なな生態系があることを多くの人に知らせたい」。新妻さんは松川浦の環境を後世へつなぐために活動を続ける。
 


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