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「旗指物」 浜通り編
旗指物の制作に取り組む西内清実さん(左)、清祐さん親子。清らかな水が鮮やかな模様を際立たせる=南相馬市原町区の水無川
ふくしま発 水のあした
第1部 暮らし支えて【12】
2010年2月2日付
「旗指物」 浜通り編

染めの出来水質左右 自然相手の難しい作業
 騎馬武者が勇壮な戦国絵巻を繰り広げる国重要無形民俗文化財の「相馬野馬追」。相双地方で一千有余年の歴史を誇る祭典で、宇多郷、北郷、中ノ郷、小高郷、標葉郷の5郷から出陣した騎馬武者が決戦の地・雲雀ケ原に集結、戦国の世の戦さながらに御神旗を奪い合う神旗争奪戦でクライマックスを迎える。御神旗を目指して疾走する騎馬武者の背には、先祖伝来の色鮮やかな旗指物がたなびく。
 南相馬市原町区の市街地を流れる水無川。毎年初夏になると、同区で西内染工場を営む西内清実さん(77)、清祐さん(47)親子が、川の中で旗指物の水洗い作業を繰り返す姿を目にする。相双地方に野馬追の季節が到来したことを告げる風物詩でもある。旗指物は、絹の布地に下絵を描き、防染糊(のり)を塗りつけた後、友禅染の染料や顔料で染め上げる。川での水洗いは、旗を水にさらして糊を落とす作業で、余分な糊を洗い流すと、鮮やかな模様が際立ち、川面で美しく揺れる。
 西内染工場は昭和5(1930)年の創業。清実さんは2代目、清祐さんは3代目を継ぐ。2人は水洗い作業の季節になると、川の状態を日々観察してから作業に入る。きれいな水が色の鮮やかさを際立たせるという。清祐さんは「天候や水量で水質は変わる。最近は水質が昔に比べて悪くなった」と自然相手の作業の難しさを語る。2人は、伏流水のわき出る場所で水洗いの作業を行うようにしている。川底をきれいにして、布地に汚れが付かないような工夫も凝らしている。「田んぼに水が入る季節は特に気をつかう」と清実さん。
 旗指物は、役職や家柄を表す騎馬武者の誇りだ。中ノ郷の「軍者」として軍師、副軍師を補佐し隊を統率する現場指揮官の役割を担う、同市原町区で魚店を営む相沢清さん(50)は「旗指物は、遠くからでも騎馬武者が誰かを知らせる存在。出陣の際、馬に乗る直前に旗指物を背負うと、気が引き締まる」と話す。
 清実さん、清祐さん親子も騎馬武者の思いに応えようと、歴史資料をひもときながら先祖伝来の旗の下図と色を再現する。清実さんは「依頼者から先祖の話を聞いているうちに歴史の深みにはまり、こだわりが出る」と語る。匠(たくみ)のいちずな思いが野馬追を支える。
 


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