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「裸参り」 中通り編
部長の松本さん(右)から激励を受ける初出場の鈴木さん。防火に対する消防団員の思いが伝統を守る
ふくしま発 水のあした
第1部  暮らし支えて【13】
2010年2月3日付
「裸参り」 中通り編

冷水浴び無火災祈る 伝統を守る浪江消防団
 水にまつわる伝統行事が県内各地に残る。浜通り地方でその一つが浪江町の浪江神社火防祈祷祭「裸参り」。厳しい寒さの中、白装束姿の若衆が冷水を浴びながら町内の目抜き通りを駆け抜ける。沿道にはバケツに冷水を用意した商店主や児童らが待ち構え、柄杓(ひしゃく)で冷水を浴びせながら、1年の無火災を祈願する。水を浴び、寒さに震えながら疾走する若衆にも、沿道から冷水を浴びせる住民にも、火から家族や家財を守り、水を尊ぶ思いが受け継がれている。
 裸参りは1859(安政6)年2月の大火を機に、旧正月8日に若衆が下帯姿で町内を一巡し、各家に水を掛けて「火の用心」を呼び掛けたのが始まりと言われている。現在も毎年旧暦の1月8日に行われる。豊かな水に恵まれた浪江町の厳冬期の風物詩として住民に親しまれている。
 いま伝統を継承するのは浪江町消防団第一分団第一部。若手団員が若衆を務めるほか、先輩団員は神事の進行など裏方として支える。部長の松本敬三さん(42)は「水を浴びることで住民に防火意識を訴える役割がある」と話す。
 同町中心部の新町通り沿いにある第一部の屯所。待機室の壁には、裸参りに出場した団員らの集合写真が掛けられている。写真の中には昭和初期の古びた写真もあるが、どの年代の出場者も皆、大役を果たした自負心に満ちた表情だ。冬でも温暖な浜通りとはいえ、氷点下で降りしきる雪の中を走ることも度々あった。松本さんは「昔は走っているうちに白装束が凍り、素肌が擦りむけて血が出ることもあったと聞いている」と話す。浪江は古くから大火に度々見舞われた町で、火に悩まされた先人の思いが、冷水に耐える若衆の心を支えている。
 第一部には今年初出場を迎える団員がいる。入団2年目の鈴木徳郎さん(31)は特別な思いで旧暦の1月8日に当たる2月21日の裸参りを待つ。「昨年1月に生まれた長男が元気に育つように願いを込めて走りたい」。緊張気味の鈴木さんに対し、松本さんは「裸参りに寒さ対策はない。気合で走るしかない」と激励する。
 浪江町は南に高瀬川、北に請戸川が流れ、恵まれた水にはぐくまれた住民の感性が、伝統行事の根底に脈々と息づいている。
 


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