水のあしたTOP
大源流米 会津編
只見川に注ぐ源流の水がはぐくんだ「大源流米」。豊かな水が農家の夢を実現させた
ふくしま発 水のあした
第1部 暮らし支えて【17】
2010年2月9日付
大源流米 会津編

清流活用ブランド化 付加価値で収量を補う
 真冬の奥会津地方。只見川沿いに国道252号の「雪の回廊」が続く。金山町横田地区で、新潟県と境を接する御神楽岳山系から流れ落ちる滝沢川と松坂沢が、只見川に注ぐ。雪深い山々のブナの森に蓄えられた源流の水。その清冽(せいれつ)な水が、地元の農家のコメ作りを支える。コメの名前は「大源流米」。町が2001(平成13)年に商標登録した奥会津を代表するブランド米だ。
 大源流米の誕生の裏には、逆境に立ち向かう農家の知恵があった。金山町の総面積の約9割が森林地帯。米どころ会津の中で、耕地は極めて少ない。その上、長年続いてきた米価の下落傾向が地元の稲作農家を苦しめてきた。大源流米の生産者の一人で、地元農協の営農指導員として企画立案に参加した同町大塩の農業渡部宏昭さん(55)は「そのころは、食の安全安心に対する消費者の関心が高まった時期で、水そのものを売りにしようと思った」と振り返る。
 稲を育てる水で付加価値を高め、少ない収量を価格で補う発想だった。渡部さんら関係者は町内の只見川支流の水を利用する田んぼを一枚ずつ確認した。町内で稲作が盛んな横田地区が生産地区に決まったが、生活排水への懸念から用水の上流に民家があるような田んぼは除外した。渡部さんは「一部の農家からは不満の声も出たが、稲を育てる水にこだわりを持たないと、消費者に信頼してもらえないと考えた」と話す。大源流米の生産が認められたのは横田地区の大塩、上横田、滝沢の3集落の農家約70人。対象品種はコシヒカリに絞った。
 大源流米は生産量が限られ飛躍的な販路拡大にはつながらないが、定期購入する首都圏の消費者もおり町の特産品として定着した。JA会津みどり金山総合支店主任の五ノ井泰範さん(41)は「一度食べるとおいしさが実感できる」と食味に太鼓判を押す。低農薬栽培の安全安心な米として町の助成を受け、町内の学校給食でも利用されている。
 渡部さんは今春、町内の有志とともに農業生産法人を立ち上げる。農家の高齢化や担い手不足で、個人農家では耕地が維持できなくなっている現状への危機感からだ。「農業経営を成り立たせ、若者を雇用できるような会社にしたい」と渡部さんは語る。豊かな水で育った大源流米が地域農業の夢もはぐくむ。
 


〒960-8648 福島県福島市柳町4の29
ネットワーク上の著作権(日本新聞協会)
国内外のニュースは共同通信社の配信を受けています。

このサイトに記載された記事及び画像の無断転載を禁じます。copyright(c) 2001-2004 THE FUKUSHIMA MINYU SHIMBUN