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酒の一滴 会津編
地下からわき出る水の豊かさを実感する佐藤社長。飯豊山の伏流水が酒造りを支える
ふくしま発 水のあした
第1部 暮らし支えて【18】
2010年2月10日付
酒の一滴 会津編

伏流水を仕込み水に 醤油や味噌醸造文化も
 喜多方市押切南の濁川の堤防近くに、酒蔵がある。清冽(せいれつ)な飯豊連峰に源を発する伏流水をくみ上げ、日本酒の仕込み水として使用している大和川酒造店の蔵の一つ「飯豊蔵」だ。濁川の川辺が真っ白な雪で覆われた冬のある日、同酒造店の杜氏で工場長の佐藤和典さん(52)が、市主催の「酒づくり講座」の受講生を前に、酒袋に入れたもろみを搾る作業を続けていた。鑑評会に出品する酒と同じ製法で、純米吟醸酒が一滴ずつゆっくりと、おけにたまっていく。和典さんは「仕込み水は酒そのもの」と水の大切さを説く。
 大和川酒造店の創業は江戸時代中期の1790(寛政2)年。220年の長きにわたり飯豊山の伏流水で日本酒を仕込み、「弥右衛門酒」をはじめとした銘酒を生み出してきた。同市寺町の本社にはかつての仕込み蔵があり、今でも飯豊蔵と同じように豊富な地下水がわき出ている。
 社長の佐藤弥右衛門さん(58)は9代目の当主。「酒造りは水、米、気候風土が三大条件で、喜多方はそのすべてがそろっている」と、わき出る水をひしゃくですくいながら、あらためて水の豊かさを実感する。
 水や気候風土は昔と変わらない喜多方の地。だが、地元産の酒米がなかなか手に入らなくなったと、佐藤社長。「昔の農家は酒米や大豆、麦など多品目を生産していた。現在は米作りの主力がコシヒカリになり、酒米を作る農家が少なくなった」。現状への危機感から、同酒造店は1997(平成9)年に農業生産法人「大和川ファーム」を設立、自社で酒米を栽培している。佐藤社長は「喜多方で育った原料を使い、喜多方の風土の中で酒を造り続けたい」と酒造りへの情熱を語る。
 飯豊山の伏流水は酒だけでなく、醤油(しゅうゆ)や味噌(みそ)づくりの醸造文化をはぐくんだ。天然味噌醤油醸造元の若喜商店は1755(宝暦5)年創業の老舗。12代目当主の冠木紳一郎さん(54)は「喜多方は会津盆地の水がめ。地下に豊富な水脈があり、道路の消雪水も地下水を利用している」と紹介する。冠木さんによると、市内には「御清水」など水にちなんだ地名が多く残るという。蔵のまち・喜多方は豊かな水の恵みにはぐくまれたまちでもある。
 


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