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安積疎水
猪苗代湖の水を引き入れる安積疏水の上戸頭首工
ふくしま発 水のあした
第2部 共生の知恵【1】
2010年4月8日付
安積疎水

国の政策転換を象徴 改修事業が予算不採択
 猪苗代湖の水を引き郡山市を中心としたかつての「安積野」の地域を潤す安積疏水。湖からかんがい用水路に水を引き込む取水口の一つが湖岸北東の猪苗代町上戸浜にある上戸頭首工。この頭首工の改修事業が本年度の政府予算編成で不採択となり、政権交代後の国の政策転換を象徴するケースとして注目を集めた。
 上戸頭首工は1962(昭和37)年に建造され、老朽化が著しい。取水口の土砂止めに湖の波がぶつかるたびに「ガタガタ」と鈍い音が響き渡る。コンクリート壁の一部が崩れ、鉄製の水門を上下させる滑車の一部が欠けている。管理する安積疏水土地改良区は工期5年、総事業費22億円の計画で国営事業による改修工事を申請していた。
 安積疏水は、食糧増産による富国強兵を目指した明治政府が安積原野開拓事業として1879(明治12)年に着工、3年で完成した。水の利用が農業から発電、水道、工業用と多様化し、原野が田畑に変わり都市へと変遷してきた地域の住民にとって、生活を支える「母なる水」だ。
 本年度予算編成で政府は農業関係の公共事業である土地改良事業の縮小方針を打ち出した。上戸頭首工の改修事業が見送られたことに同改良区理事長の本田陸夫さん(67)は「水は血液と同じ。安積疏水の水路は血管であり生きるために必要だ」と訴える。
 郡山市大槻町の水稲農家の国分周司さん(49)は、化学肥料や農薬の使用を軽減した環境保全型農業の普及に努めている。安全で安心な水が不可欠。「安積疏水のきれいな水は安心して農業に使える。改修予算が不採択となったことに不安を感じる」と国の方針を疑問視する。同改良区は来年度予算編成でも改修工事を申請する方針。本田さんは「世論を喚起し事業の大切さを分かってもらうほかない」と語る。「130年ほど前まではこの地域は飲む水にも困っていた。今の人はそのことを忘れている」。利水事業の意義があらためて問われている。
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 生命をはぐくみ暮らしを支える水。時に洪水などで自然の驚異を知らしめる水。地域では古くから水を利用し、治める知恵が息づいてきた。第2部「共生の知恵」では、環境保全や公共事業の見直しなどで在り方が問われる利水や治水の意義を考える。
 


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