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「千本桜」
かつて夏井地区の農家を苦しめた夏井川は、桜の名所に生まれ変わった。今年は今月中旬に開花しそう
ふくしま発 水のあした
第2部 共生の知恵【2】
2010年4月9日付
「千本桜」

暴れ川美しい回廊に 改修を経て観光名所化
 阿武隈山地から太平洋に注ぐ夏井川上流の小野町夏井地区では、川沿いの両岸にそれぞれ約2.5キロの桜並木が続く。「夏井川千本桜」と名付けられた桜並木が満開になると、緩やかな流れの夏井川に「桜の回廊」が現れる。小野町は今年の開花を今月15日以降と予想、例年よりも若干遅れるというが、地域住民や観光客が心待ちにしている。
 夏井地区は古くからタバコと稲作が行われてきた農村地帯。地区を流れる夏井川の流れはかつて大きくうねり、氾らんを繰り返してきた。小野町史によると、大雨が降ると夏井川からあふれた水が田畑に流れ込んで農作物に大きなダメージを与えていた。地区内は高低差がある地形で川からあふれた水はすぐに引いていたため、災害対策としては道路や橋の復旧工事に限られ、洪水対策は長く行われてこなかったという。
 夏井地区で長く農業に携わる佐藤和臣さん(79)は「昔はひどかった。多いときは年に3回、水が上がり、農作物が全滅する年もあった」と振り返る。大雨になると馬を高台に避難させた。水が引いても湿気を含んだタバコは品質が落ちてしまう。地元農家にとって、夏井川は「暴れ川」だった。
 1968(昭和43)年、農地整備のための土地改良構造改善事業が着工、併せて蛇行する夏井川の河川改修が行われた。工事は72年に完成、大きくうねっていた夏井川は直線的な流れになり、堤防も整備されて氾らん被害は無くなった。工事完成を契機に、地元の有志が桜の咲き乱れる夏井川をつくろうと発案。現在の夏井川河川愛護会の前身となる夏井の里桜愛好会を結成し、地元や近隣の273人からよせられた寄付を元にソメイヨシノの苗木1000本を購入、75年に植樹を行った。
 苗木は35年を経て「桜の回廊」として親しまれるまでに育ち、シーズンには県外の観光バスなども乗り付けるようになった。昨年は約7万人が訪れたという。
 かつて農家を苦しめた夏井川は、河川改修を契機に桜の名所になり、地域住民や観光客に安らぎを与える場に変容した。「何の変哲もない農村が、今や県内外から多くの観光客を迎えるようになった」と語る愛護会会長で夏井行政区長の宗像敬さん(69)は、夏井川と地域との「共生」を感じている。
 


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