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せり出した木の枝に産み付けられたモリアオガエルの卵塊。平伏沼はモリアオガエルの繁殖地として国指定天然記念物となっている
ふくしま発 水のあした
第3部 命はぐくむ【2】
2010年7月25日付
モリアオガエル

平伏沼に生きる財産 村民総出で危機を救おう
 阿武隈高地の山々に囲まれた川内村。梅雨時季前後の6〜7月、村内の平伏山山頂にある平伏沼(へぶすぬま)から、繁殖期を迎えたモリアオガエルの合唱が聞こえてくる。沼にせり出した広葉樹に産み付けられる泡状の「卵塊」、それらを映す鏡のような水面。村が守る沼の一帯は神秘的な雰囲気に包まれている。
 平伏沼は「モリアオガエルの繁殖地」として1941(昭和16)年2月に国の天然記念物に指定された。標高842メートルの平伏山の山頂に位置し、雨水と、周辺に広がる広葉樹の保水力で水位を保っている。蛙(かえる)の詩人こと、いわき市出身の草野心平が「モリアオガエルの生息地があれば教えてほしい」と新聞に投稿して訪れた場所としても有名で、沼辺には「うまわるや 森の蛙は 阿武隈の 平伏の沼べ 水楢のかげ」と心平の歌が刻まれた歌碑が建てられている。
 モリアオガエルは繁殖方法が特徴的。沼にせり出すように生えている木の枝に卵を産み付ける。白い泡状の卵塊には約100個の卵が入っており、卵が孵化(ふか)すると沼に落下、オタマジャクシが水中の暮らしを始める。「コロッ コロッ」と聞こえるモリアオガエルの鳴き声は、独特の響きを持っており、県の「うつくしま音の30景」にも認定。村の委託を受けた監視員の新妻秀一さん(56)は「モリアオガエルの低音の鳴き声は森に調和している」と説明する。
 1970年ごろ、平伏沼とモリアオガエルに危機が降り掛かった。天候などの影響で水位が減少、沼が干上がりモリアオガエルは絶滅寸前に陥った。広葉樹が伐採されたため保水力が無くなったという説もある。村内の中学生が学校や自宅に卵塊を持ち帰って孵化させたり、卵が落下する辺りに水を入れた発泡スチロールの箱を並べるなど、「村民総出の努力」で村の財産は守られた。
 沼を管理している同村教委の教育長石井芳信さん(65)によると、多くの水を蓄えられるようにと、沼の底を掘るなどの計画も持ち上がったことがあるが、「自然のままを維持することが大切」として手は加えられていない。石井さんは「村の子どもたちも貴重なモリアオガエルを自慢の一つにしている」と誇らしげに語った。
 


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