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イチョウウキゴケ
ひっそりと休耕田に浮かぶイチョウウキゴケ=福島市小鳥の森
ふくしま発 水のあした
第3部 命はぐくむ【7】
2010年7月30日付
イチョウウキゴケ

移動、輸送の重要手段 阿武隈川の「力」を利用
 福島市中心部の東に位置する「小鳥の森」には多様な生物が暮らす。野鳥や虫の絶え間ない鳴き声が響きわたる小鳥の森には「里山の自然」が広がり、木々の切れ目に棚田が残る。今では休耕田の水面に浮かぶ小さなコケ。目を凝らさなければ見落とすほどのコケは、絶滅の恐れがあるとして県のレッドデータブックで「絶滅危惧(きぐ)T種」に指定された「イチョウウキゴケ」だ。小鳥の森には、かつて広い範囲で見られたイチョウウキゴケがひっそり息づいている。
 イチョウウキゴケは1a程度の小さなコケで、イチョウの葉に似た形が特徴的。環境省ホームページによると、コケ類の中で唯一、水面に浮遊する。かつては日本各地の田んぼや池の水面で見ることができたが、水質の問題で生息域が少なくなり、全国的に減少している。
 生息条件を選んで繁殖するイチョウウキゴケが減少した要因として、水質汚染や農薬の使用が挙げられている。
 小鳥の森の棚田では、4年前までもち米が栽培されていたが、イノシシの被害などがあったため休耕田となった。その後の2008(平成20)年、休耕田にたまった水に浮いているイチョウウキゴケが確認された。もともと農薬を使わずにもち米を栽培していたため、ずっと生息していた可能性があるが、気付いた人はいなかった。休耕田の水は、人知れず絶滅危惧種を守っていた。
 小鳥の森レンジャーの長渡真弓さん(37)は、「今は絶滅危惧種となっているが、もともとは身近にあったもの。よく見直すと近くにあることに気づくことが出来る」と解説する。
 イチョウウキゴケについて「小ささといい、形といい、出会うとうれしくなり、楽しくなるコケ」と話すのは県植物研究会員の伊賀和子さん(62)=南相馬市。伊賀さんは、「イチョウウキゴケが出ているところは、タニシなどの生き物が豊富な場所」と説明する。
 伊賀さんは浜通り地方のいくつかの場所で、イチョウウキゴケの生息を確認してきた。「里山の自然」に接している長渡さんは「人が住む近くには、昔ながらの自然が意外に残っている。残っているものは、これからも残していくようにする気持ちが大切」と話す。
 


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