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鮫川のアユ
銀りんを躍らせながら遡上する若アユ=いわき市・鮫川
ふくしま発 水のあした
第3部 命はぐくむ【8】
2010年7月31日付
鮫川のアユ

清流にきらめく恵み 環境変化で天然物減少
 鮫川村から古殿町を経て、いわき市の南部を通り、太平洋へと注ぐ鮫川。清流のシンボルとされるアユをはじめ、ウナギやサケが遡上(そじょう)する。流域に暮らす人々にとって、川がはぐくむ恵みは、昔から地域の水産資源、観光資源として無くてはならない。
 現在は毎年6月に解禁となる鮫川水系のアユ漁。腕自慢の「太公望」らが集い、友釣りを楽しむ人気スポットだが、かつてはいま以上のにぎわいを見せていた。
 天然アユの遡上が活発だった昭和初期、釣り人気は高く、東京など関東地方からも多くの釣り人がこの地を訪れた。当時、鮫川産のアユは築地魚市場にも出荷され、食味の良さが人気を集めていたという。
 幼少から流域のいわき市遠野町で暮らす鮫川漁業協同組合長の櫛田幸太郎さん(75)は「昭和30年代ごろまでは、アユが群れを成して川を上る姿をたくさん見ることができた。お正月にはアユの薫製がごちそうだった。川で魚を捕まえたりして、自然の仕組みや自然に生かされていることを肌で感じていた」と当時を振り返る。
 昭和40年代ごろから、川やそこで生きるアユなどの生物を取り巻く環境が変わり始めたという。
 治水目的や工業用水、かんがい用水を供給するためダムが建設された。さらにブラックバスなど外来魚が出現し始め、天然アユの遡上が減少した。
 櫛田さんは「人々の川離れが進み、関心が低くなり、ごみや排水で水が汚れたことも要因ではないか」と分析する。
 最近になって天敵のカワウによる食害も増えており、アユを取り巻く環境は厳しさを増すばかりだ。
 同組合は毎年、鮫川本流、支流の入遠野川、四時川などで稚アユの放流を続け、良質な魚の確保に努めている。本年度は人工繁殖した稚魚約1200キロを放流した。近年では、遡上が難しい取水堰(ぜき)付近で天然アユを採捕し、上流へ放して遡上を促している。
 「大勢の人たちに、アユや川を愛する気持ちを、もう一度はぐくんでもらいたい」と話す櫛田さん。こうした思いを受けながら、毎年春には若アユが銀りんを躍らせながら、力強く川を上る。
(第3部おわり)
 


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