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尾瀬の湿原
尾瀬沼(手前)から望む大江湿原の草紅葉。豊かな水が尾瀬の多種多様な動植物の命の源となる=5日撮影
ふくしま発 水のあした
第4部 豊かさを守る【1】
2010年10月10日付
尾瀬の湿原

自然支える貴い水源 生活排水は外部の川に
 本県の豊かな自然を代表する尾瀬国立公園。豪雪地帯で年間雨量が多く、大量の水をたたえている。豊富な水が高層湿原を形成、貴重な高山植物が季節を彩る。尾瀬沼周辺や本州最大の湿原・尾瀬ケ原などには毎年30万人を超えるハイカーが訪れ、豊富な水が支える手つかずの大自然を堪能し、心を癒やす。
 本県側の大江湿原はいまの季節、黄金色に輝く草紅葉が広がる。中央には3本のカラマツが並び、秋の尾瀬を代表する光景がハイカーを魅了、尾瀬沼には日本百名山の燧ケ岳が映し出される。約8千年かけて積み重なった泥炭層が形成されている尾瀬の湿原。福島大名誉教授の樫村利道さん(79)は「泥炭層の90%以上は水。残りの数%が植物の遺骸」と豊富な水をたたえる秘密を明かす。樫村さんによると泥炭層は自然の貯水池だ。
 尾瀬は太平洋に流れる利根川水系と日本海に注ぐ阿賀野川水系の水源でもある。降った雨が太平洋と日本海に分かれる分水嶺となっている。阿賀野川水系の水は尾瀬沼が源で、沼尻川となった水の流れは尾瀬ケ原に一度入り、只見川となる。水の流れは三条ケ滝から一気に約90メートルの高さを落ち、只見川、阿賀川、阿賀野川となって日本海へと下る。尾瀬の豊富な水はその途中でダムでせき止められ、水力発電に利用されてきた。
 貴重な水源となっている尾瀬では、ハイカーらの公衆トイレや山小屋の排水は浄化槽で処理された後、パイプラインなどを通じて外部の川に流される。尾瀬の自然に環境負荷をかけない取り組みだ。尾瀬沼周辺に4月から11月まで常駐し、環境保全活動に当たる尾瀬保護財団職員の中川昌二さん(52)は「尾瀬沼や湿原に生活排水を入れないことが、保全には何よりも重要になる」と語る。長年、尾瀬の環境や生態を研究する樫村さんも「尾瀬の中で水の流れが自然の骨格を形成しており、それを乱すと自然全体に影響が出る」と水の大切さを話す。水を守る思いが尾瀬を守ることにつながる。
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 本県の豊かな水環境。さまざまな命をはぐくみ、四季折々の自然を映し出す。第4部「豊かさを守る」では、本県が誇る水環境とそれを守る人々の取り組みに触れ、水の豊かさ、恩恵の貴さをあらためて考える。
 


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