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奥会津のブナ林
9月下旬の只見のブナ林。自然のダムは、豊かな水を蓄える
ふくしま発 水のあした
第4部 豊かさを守る【7】
2010年10月18日付
奥会津のブナ林

生態系をはぐくむ森 保全と活用共存を模索
 奥会津地方のブナ林。人の手の入り込まない森の中を歩くと、幾重にも重なった落ち葉の地面を踏む「サク、サク」という足音だけが、静寂の中に響き渡る。ブナ林の生態などを紹介する只見町ブナセンター主任指導員の新国勇さん(53)は「秋のブナ林には詩人の世界が広がる。今年は色付きが遅れているので、見ごろは11月上旬ごろになると思う」と話す。
 ブナ林は「自然のダム」と例えられる。奥会津の豪雪は大量の水となってブナ林に蓄えられている。そのわき水が、只見川の豊かな水の流れとなる。新国さんは「木々の保水力は樹種によって差はないが、奥会津のブナ林は手付かずの森だからこそ、只見川の豊富な水の源となる」と語る。ブナ林が豊かな水源であることを、人々は昔から知っていた。同センター長の山内清示さん(57)は「只見では昔からブナ林は水林と呼ばれ、禁伐の対象だった」と話す。
 奥会津のブナ林は住民が守り続ける森だ。戦後復興と経済需要で木材需要が高まり、国有林の伐採が進む中、住民は伐採反対を訴え続けた。1969(昭和44年)の豪雨により、伐採現場の同町布沢地区が洪水に飲み込まれる災害が発生したことも、住民の危機感を募らせた。反対運動は高まりをみせたが、解決の糸口を見いだせず、長い時間が経過した。
 99年になり、森に絶滅危惧(きぐ)種のオオタカ、クマタカの生息が確認され、貴重な生態系をはぐくんでいる森の価値が認められるようになり、林野庁がついに布沢地区のブナ伐採中止を決定した。
 2007年4月には、ブナ林を将来にわたり保護する目的で、只見町、金山町、桧枝岐村と南会津町の旧伊南村、旧舘岩村にまたがる国有林8万3573ヘクタールが「奥会津森林生態系保護地域」に指定された。
 新国さんは「奥会津のブナ林は本州最大の生態系保護地域。ブナ林に対する人々の意識が、採取の対象から観賞の対象へと変わった」と誇る。
 約4万ヘクタールのブナ林がある只見町を中心に住民の間には森に対する保全意識が定着した。住民は保全と活用が共存できる道を模索する。水源の森を守り続ける人々の思いが、豊かな水の「源流」でもある。
(第4部おわり)
 


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