大倉社長コラム〈86〉WALK TO THE DREAM クラブと地域課題

 

いわきスポーツクラブ・大倉智社長

若者が自慢できる街に

 クラブの存在意義の一つは、地域の課題に向き合って解決方法を探し続けることだ。震災を忘れない、風化させないためにスポーツでできることは何かを考えながら進んできたクラブは、地域が抱える多くの課題と向き合ってきた。

 チームの本拠地であるいわき市では、特に子どもの健康問題や若者の人口減少などが課題として挙がっている。クラブが設立した当初からずっと言われてきたのが子どもの健康問題だ。県内の子どもは肥満度が高くスポーツテストの結果が悪いというデータが震災前後にかかわらず出ている。

 子どもの健康問題に対しては、体力や運動能力を高め、スポーツ万能型を育成するプログラム「いわきスポーツアスレチックアカデミー(ISAA)」を2017年から開催している。ISAAでは「走る」「投げる」「跳ぶ」「つかむ」などの基礎的な動きを中心に指導し、体を動かすことの楽しさを伝えることが目的となっている。健康的な体づくりにもつながり、将来の選択肢も広がっていくことから継続していきたい取り組みだ。

 若者の人口減少については、県外への流出や県内に戻ってくる機会の創出が課題だが、クラブが故郷に帰ってくる一つのきっかけをつくっていきたい。Jリーグの試合を行うことで県内外から多くの人が集まり、地域の一体感も生まれる。Jリーグが生み出す効果は大きい。週末、試合を観戦するために帰省するといった形が一つの例だ。若者にとって地元を自慢できる誇れる街をつくっていきたいと考えている。

 被災地で生まれたこのチームだからこそ次なる目標に向かって一緒に地域を盛り上げていくことがクラブの根底にある。今後も復興への思いを胸に、地域と共に走り続け成長していきたい。


 おおくら・さとし 川崎市出身。早大商学部卒。現役時はJリーグの柏レイソルやジュビロ磐田などでFWで活躍。引退後はセレッソ大阪チーム統括ディレクター、湘南ベルマーレGM、社長などを歴任し、2015年12月から現職。54歳。