大倉社長コラム〈89〉WALK TO THE DREAM 選手の成長

 

◆いわきスポーツクラブ・大倉智社長

世界レベル、いわきから

 サッカークラブを経営する喜びの一つは、選手の成長を見ることだ。そのモデルケースの一人と言えるのは、今夏にイングランドの名門リバプールへ移籍したMF遠藤航だ。湘南時代にGMや社長として成長を見守ってきた彼が、世界トップレベルでプレーすることは本当にうれしい。

 遠藤はJクラブのジュニアユースに入れずに中体連所属の選手だった。しかし高校生になり湘南のユースに入団すると、高校2年でトップチームでJデビュー。そこからどんどんとプレーの幅を広げ、19歳と若くしてキャプテンも務めた。

 その後浦和に移籍したのは目標だった世界へ出て行くことを見据えてのこと。ステップアップの時だった。だからオファーがあった時には「(浦和に)行かせてあげよう」と送り出した。私がいわきの社長になる前年のことだ。それから約7年、世界のトップレベルにまで上り詰めた。

 選手はどこでどう変わるか分からない。彼も身体能力に特別優れていないことから、前評判は決して高くなかった。それでもここまで成長したのは、性格や人柄の良さがあるからだろう。

 湘南時代には人一倍早く練習場に来て準備していた。人の意見はしっかり聞くが、へつらったりしない芯の強さもある。ピッチではチームのために寡黙に泥くさくプレーした。

 継続的に課題の解消に取り組むことも選手として大切なこと。おそらく彼もこの間、スピードを補うために体や予測力を自主的に鍛えてきたはずだ。そんな彼なら、世界でも別次元にレベルの高いプレミアリーグもきっと乗り切れると思う。

 いわきでは「湘南スタイル」をより具体的に落とし込んでクラブ経営につなげている。将来、いわきからも世界へ羽ばたく選手が出てきてほしいと願っている。

 おおくら・さとし 川崎市出身。早大商学部卒。現役時はJリーグの柏レイソルやジュビロ磐田などでFWで活躍。引退後はセレッソ大阪チーム統括ディレクター、湘南ベルマーレGM、社長などを歴任し、2015年12月から現職。54歳。