【ふくしま応援人】銀座のママら復興寄り添う

 
「銀座から福島の魅力を発信する」と誓う白坂さん(左)と田中さん

 NPO法人「銀ぱち」理事長・白坂亜紀さん、副理事長・田中淳夫さん

 昼夜を問わず人でにぎわい、華やいだ雰囲気が漂う東京・銀座。老舗百貨店や海外の高級ブランド店が軒を連ねる国内有数の繁華街を拠点に、NPO法人「銀座ミツバチプロジェクト」(通称・銀ぱち)は福島の生産者と大都市の消費者とをつなぐ活動を続けている。「銀座は発信力のある場所。夜に働く私たちにもできることはある」。高級クラブのオーナーでもある理事長の白坂亜紀さん(56)は"銀座のママの象徴"と表現する着物姿で復興へ歩む人に優しく寄り添う。

 ビル屋上でミツバチ

 銀ぱちと本県との関わりは東日本大震災前にさかのぼる。「銀座で蜂蜜が取れたら面白いよね」。そんな好奇心から銀座周辺で働く有志が集い、2006年にビルの屋上でミツバチの飼育を始めた。都市養蜂の取り組みは全国の関心を集め、09年には福島市の有志が蜜源として同市荒井地区で育てた菜の花を届けるなど活動に参加し、交流を深めてきた。「長男夫婦は荒井(地区)の菜の花畑で結婚式を挙げたんだ」。白坂さんと活動を共にする副理事長の田中淳夫さん(65)は目を細めた。

 震災と東京電力福島第1原発事故から間もなく12年。発災直後、白坂さんの店の常連客や田中さんの親しい知人の中には東京から避難する人もいたが、銀ぱちメンバーの心に宿る福島への思いが薄れることはなかった。「何もかもが不足している」。福島市の友人から助けを求める連絡が入ると、田中さんらは支援物資を避難所に届けた。白坂さんも銀座のクラブのママやバーテンダーらと共に同市の土湯温泉を訪れ、旅館に身を寄せる被災者に蜂蜜を使ったカクテルやジュースを振る舞った。

 震災前から行ってきた、銀座で本県などの特産品をPRするイベントも続けた。震災直後は福島のリンゴを紹介すると、「福島の食品を扱うなんてテロリストだ」と心ない言葉を浴びせる来場者もいたという。田中さんは風評の現実を目の当たりにして憤りを感じたが、ふと思った。「この課題を解決することが自分たちの成長にもつながるんじゃないか」

 あんぽ柿、冬の風物詩

 農業再生と脱炭素の実現に向け、荒井地区の耕作放棄地に太陽光パネルを整備し、パネルの下でソバを栽培する新たな取り組みを始めた。ソバを使って開発した「そばパスタ」は好評で、発電した電気は銀座を含め首都圏の企業が購入する仕組みが整いつつある。15年から続く県北地方特産のあんぽ柿を棚につるしてビル街に飾る光景は"銀座の冬の風物詩"として定着してきた。

 白坂さんは「もう周りには福島の食べ物を敬遠する人はいないけれど、私たち飲食業界が先頭に立って魅力を伝え続ける」と誓う。銀座では本県産果実をふんだんに使ったカクテルを提供するバーが増えた。銀座の仲間と共に福島のこれからをもり立てていく。

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 しらさか・あき 大分県出身。早稲田大在学中に日本橋の老舗クラブに勤務し「女子大生ママ」を経験。「クラブ稲葉」など銀座で3店舗を経営、銀座社交料飲協会副会長も務める。2022年5月から理事長。

 たなか・あつお 東京都出身。日本大法学部卒。銀座のビル運営会社「紙パルプ会館」専務。設立中心メンバーの一人。都市養蜂をはじめ銀座と全国各地をつなぐ活動に取り組む。副理事長。