【ふくしま応援人】島耕作さん「不毛な風評の連鎖、断ち切ろう」

 
「変化を選ぶことでチャンスが現れる」と訴える島さん

 社外取締役・島耕作さん

 「誤解によって生み出されたマイナスのエネルギーが新たな風評被害を生み出してしまう。そんな不毛な連鎖は断ち切ろうじゃありませんか」。サラリーマン漫画の金字塔「島耕作」シリーズの主人公で、70歳を超えた今もビジネスの世界で辣腕(らつわん)を振るう島耕作さんは、風評問題を考える環境省主催の有識者会議で訴えた。東京電力福島第1原発事故から12年が過ぎても、放射線の健康影響に関する誤解や偏見は根強い。放射線の正しい知識の普及を目指す同省の情報発信の在り方を巡っても、スーパービジネスマンは"ご意見番"として存在感を発揮している。

 正しい知識発信

 環境省によると、今年3月に原発事故で被ばくした人の子孫に遺伝的な影響が起こる可能性について全国調査を実施したところ、影響がないにもかかわらず対象1万2千人のうち4割前後が可能性が「高い」「非常に高い」と回答。2021年と22年の調査でも誤解した回答は全体の4割以上に上った。

 同省は誤解や偏見が県民への差別につながる恐れがあるとして、21年度から放射線に関する正確な理解を広める事業「ぐぐるプロジェクト」をスタート。22年度には社会人への訴求力があるとして、島さんにプロジェクトへの参加をオファーし"快諾"を得た。

 第三者の視点を

 「ぐぐるプロジェクトは現在のところ、成果が出たと胸を張って言える状況にはない」。有識者会議は本年度のプロジェクトの活動開始に合わせて6月下旬に東京都内で開かれ、スクリーンに登場した島さんは環境省の広報活動の効果が限定的だと冷静に分析した。昨年、作中に登場する塗装会社「UEMATSU(うえまつ)塗装工業」の社外取締役に就いた経緯を踏まえ「同じ釜の飯を食ってきた社内取締役だけでは内輪の論理で考えてしまい、会社が間違った方向に進んでいることに気付かないこともある」と指摘、第三者の意見を尊重するよう提言した。

 政策決定を巡り、前例踏襲主義にとらわれているとの批判が根強い霞が関(官界)の体質についても「このまま前例踏襲や現状維持に固持している間に誤解が偏見となり、差別が生まれていく」と警鐘を鳴らした。望む結果を得るためには「変化を選ぶことでチャンスが現れる」と意識改革を求め「負けたら次に勝てばいい。そうすれば、知らず知らずのうちに見たい景色が見えてくる」と失敗を恐れず挑戦するよう促した。

 目標へ「私も応援」

 有識者会議の厳しい意見について、西村明宏環境相は記者会見で「これまでは画一的な情報発信だった」と認め、改善に取り組む考えを示した。ぐぐるプロジェクトは25年度までに、誤解した回答の割合を2割に半減させる目標を掲げている。有識者の意見を今後の情報発信政策にどう生かし、誤解と偏見の払拭につなげるのか。島さんは差別のない社会の実現を強く望みながら「目標達成に向け、私も応援していく」と力を込める。

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 しま・こうさく 週刊モーニング(講談社)で連載中の「社外取締役 島耕作」(作者・弘兼憲史氏)の主人公。1970年に初芝電器産業に入社、大企業間の競争や社内の派閥抗争などに巻き込まれながらも課長から部長、取締役、常務、専務、社長へと出世した。現在は社業を離れ、政治、経済などの諸問題に軸足を置く。有識者会議では俳優の宅麻伸さんが声を演じ、提言内容は環境省と出版社側が調整し作成した。