【浜通り13物語】第10部・「変わらぬ仲間」/食の魅力発信「三銃士」

 
「食のイベントを浜通り全域に広げていきたい」と語る(左から)白石氏、橘氏、元木氏

 多彩なイベント、知恵絞り汗流す

 いわき市四倉の「ワンダーファーム」は、トマト農家の元木寛(46)が東日本大震災後に開拓した体験型農園だ。直売所には、伝統農家8代目の白石長利(41)らが丹精した農作物も並ぶ。折々に、調査会社「福島インフォメーションリサーチ&マネジメント」代表の橘あすか(42)がアイデアを凝らした多彩な企画が行われる。

 3人は東京電力福島第1原発事故による風評にくじけることなく、いわきの食の魅力を発信し続けてきた同志といえる間柄だ。農業者や漁業者、料理人らが互いの持ち味を発揮して「顔の見える」関係で消費者と向き合っていく環境づくりに知恵を絞り、汗を流してきた。彼らの現在の目標は、いわきで実を結びつつある取り組みを広げていくことだ。

 背景には、彼らが浜通り広域の連携組織「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」の会員であることが強く影響している。サーティーンは、市町村の垣根を越えて浜通りの地域づくりを進めていこうとする若手経営者らが2020年に設立した。元木が創設メンバーの一人だった関係で、白石と橘は双葉郡の熱意ある異業種の若手と交流するようになっていた。

 その中で、白石は気付いた。元木は福島高専を卒業して首都圏で勤務した後、妻の実家を継ぐ形でいわきで農業の道に入った。「元木さんはいわきが古里と言うけれど、出身の大熊町のことも、とても大事にしている」。農業は、それぞれの土地に根差して行われる産業だ。「今でも震災から時間が止まったような場所がある。さまざまな支援を受けて復興してきた自分たちが、浜通り全体を盛り上げるため、やれることは全部やるのが大事だろう」

 ただ、悲壮感はない。橘は補助金などに詳しく、いわきの若手農業者のアイデアを数多く実現に結び付けてきた。「農業だったらこの人、漁業ならこの人、料理人ならこの人というような、買い物をする人が応援したくなる『推し』の人をつくりたい」。かつての元木や白石が農業再生からの歩みの中でそうなっていったように。「そんな人たちが浜通り全体に広がれば、もっと楽しくなると思うんです」と語る。

 「食をテーマにしたイベントについては、一つのモデルを3人でつくってきた。サーティーンの活動として、浜通り全域に波及させていくことをやっていきたいんです」。元木が改めて決意を語った。震災と原発事故からの再起の道のりでは、台風の被害や新型コロナウイルスの感染拡大も経験した。「ちょっとやそっとでは、へこたれなくなりました」。いわきの地から、大きな枠組みでの復興を願う。(文中敬称略)

          ◇

 最終章の第10部は、浜通りサーティーンに集まったメンバーの現在の思いなどを紹介します。