【浜通り13物語】第10部・「変わらぬ仲間」/55歳「定年」次世代へ

 
富岡RCの会長を務める藤田氏(最前列左)と幹事の鹿股氏(同右)。仲間と共に地域のバトンを受け継いでいく

 地域づくりのバトン

 富岡ロータリークラブ(RC)は双葉郡南部の富岡、楢葉、広野、川内の4町村をエリアとする奉仕団体だ。富岡町出身で「鳥藤本店」代表の藤田大(53)が会長を務めている。同じく富岡町出身で住宅関係を取り扱う「ホームキャリア」を経営する鹿股亘(54)が、幹事として藤田を支える。2人は、浜通りの広域連携組織「HAMADOORI13(浜通りサーティーン)」の設立に深く関わった。

 浜通り、特に双葉郡で活動していた各種団体は、東京電力福島第1原発事故に伴う避難によって存続の危機に直面した。富岡RCも例外ではなく、会員が避難先などで懸命に会の存続に尽力した。そして、その「地域のバトン」は藤田と鹿股の手に引き継がれた。活動地域は帰還困難区域を除いて避難指示が解除されて経済再生が進み、富岡RCの会員も51人に増えた。

 富岡RCの会員が月2回集まる例会の場所は、かつて原発事故収束の最前線基地として使われていたJヴィレッジだ。藤田は、現場から帰ってくる作業員を迎える食堂を運営していた。鹿股は、Jヴィレッジから東電の関連会社の管理職として原発に向かっていた。ピッチに鉄板が敷かれていた様子を知る2人は「サッカーをしている子どもたちの姿を見ると本当に良かったなと思う」と、12年の復興の歩みを振り返る。

 藤田は2020年のサーティーン設立の際、団体の理念づくりに取り組んだ。そのうちの一つに「55歳定年制」がある。東北の被災地で「50歳以上は手を出さない」という方針でまちづくりをした場所があると聞いた。「若手の意見を大切にし、自然に世代交代も進む素晴らしいアイデア」と感じ、「サーティーンも50歳定年にしよう」と提案した。すると若手から「もう50歳の藤田さんや鹿股さん入れないじゃないですか」と指摘された。「じゃあ53歳」「せめて55歳に」というやりとりがあり、55歳定年に落ち着いた。

 定年を迎えたメンバーはサーティーンの若手を見守りながら、それぞれが社業やRCなどの地域活動に汗を流すことになる。鹿股は青年会議所で語り合ってきた「双葉は一つ」の夢の実現を託そうと、相談役のような立場で広域連携団体の設立を陰に日なたに支えてきた。今年が、サーティーンのラストイヤーになる。

 サーティーンは形になって動き出し、若手育成のフェニックスプロジェクトなど認知度も少しずつ定着してきた。「若手には、俺たちにはない柔軟な考え方がある。後から振り返り『これはサーティーンが手がけたんだ』と語り継がれるような事業をどんどん展開してほしい」。鹿股は満足そうに表情を緩めた。(文中敬称略)